憧れる関係性と思いつつ、葛藤もあるのが異性間の友情なのか。
『男ともだち』
これも以前から気になっていたものの、積読状態になっていた一冊。
自分自身は男なので、タイトルに反して逆の立場になるというわけですが、それでも共感してしまうのがこの作品の共感力。
とにかく主人公である神名(女性)に共感できるところもあるといいますか、そんな神名を羨ましく思うところもあるいいますか、とにかくあるあるがある。
よく言う、『異性間の友情は成立するのか』という問いがテーマになっていて、だからこそ、色々と思い当たる節があって当然なのかもしれませんが。
正直これ自体、個々の関係性というか、個々の考え方如何で成立も不成立もすると思っているところで、非常に難しいところだなとも思っている微妙な問題の諸々。
互いに恋人がいたり、そういった関係性を望んでいない時は当然友達として認識できるし、それ以上のことを考えたりすらしないものなんですよね。
それが困っている時や寂しい時、虚しい時、ふとしたギリギリの線上にいる時には考えさせられることがある部分だと思うし、実際のところ恋人と友人の関係性の違いって性交渉以外に何があるんだろうと思うところは多々あったりもするわけでして。
まあそれは結婚と恋人にあるようなふわっとした疑問だと思ってはいるのですが。
本作ではそのギリギリのラインを境にして、女性目線からの葛藤を中心に描いていくところがとても面白い。
登場人物に男性も数人出てくるんだけど、背景にある考えやエピソードは極力抑えられており、あくまでも女性の側から見た男友達としての視点で物語が進んでいく。
あとがきにもあるように登場する人物は全員クズばかりという面白さ。
それでも実際に生きていると、大抵の人は何かしら欠けているわけだし、聖人君子の様な人なんて自分の周りに浮かばないことを考えても当たり前のこと。
ここに出てくるような内情を持っている人がほとんどだと思うからこそ、感情移入も出来るし、複雑だなとも思えてくる。
ようはどこかしら自分とシンクロする部分があるからこその感情が湧いてくる。
個人的に作中に出てくるハセオという男性キャラが好きで、同性から見ても憧れを抱いてしまう。
生きることに無頓着なようでいて、人間味はあって、周りからの人望もある。この『ラフに生きているようでいて人間味がある』というところが良くて、ハセオ自体、生きることに多くは期待していないようでいて、考え方や行動はしっかりしているように見えるし、執着がないからこそ、フラットに、偏見無しに様々な物事に対峙できているように見える。
神名への距離感や接し方も絶妙な塩梅で、特に会話部分の暖かさというか、人間性が表出していて、それを読んでいるだけで、凄く安心できてしまうんですよね。
その辺は本当にこういう関係性の異性がいればなと思わせてくれる。
裏を返せばそんな関係性は実世界に存在しないともいえるんだろうけど、それは冒頭に述べたように個々に依存するところが多いわけで、絶対ということは無いとも思っている。
とにかくずっとこの関係性を見ていたい、そう思わせてくれるような『何か』が二人の間にはあるわけです。
神名が不安に思ったり、モヤモヤしている感情もまさにそこが肝になっていると思っていて、男女の関係性で確かな特別感、拘束感を持つためには肉体的であったり、恋人的立場であったりといった友達とは別のそれを確立しないと安心できないと思ってしまうところに矛盾を感じてしまう。
その『何か』という曖昧なもので繋がっているからこそ出来ている関係性、だからこそ失うのも一瞬だと思ってしまう感覚。この両者が絶妙なバランスで存在しているからこその『何か』を確認したくなってしまう。
ああ、もう考えただけで何とも言えない気持ちが募ってきます。
自分自身もそれは同感だし、どれだけ良い関係性を築いてもその相手が結婚したり、恋人が出来れば、友達は友達止まり。
友達のままいつまでもいれると考えればそれはそれで良いのかもしれないけど、ライフスタイルが変わる中で、いつまでも関係性が変わらない保証は無い。
終盤で神名はこの葛藤を乗り越えていくわけだけど、その辺の描写も画一的になり過ぎず、良い落としどころで描かれていると思います。
同性の友達とは異なる関係性、これはこれでメチャクチャ良い友達関係があるなと改めて思い出させてくれた。この読後感は癖になりそうです。
他作も含めチェックしたくなるありふれた日常の切り取りに長けた作品でした。
では。
|