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お嬢ちゃん

それぞれの抗えない性分と向き合うこと。

『お嬢ちゃん』

ポスター画像


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大ヒット作「カメラを止めるな!」を生み出した映画専門学校「ENBUゼミナール」のワークショップ「シネマプロジェクト」の第8弾で製作された2作品のうちの1作。

俳優として活動するかたわら映画監督として作品を手がけ、劇場デビュー作「枝葉のこと」が第70回ロカルノ国際映画祭コンペティション部門に出品されるなど、国内外で注目される新鋭・二ノ宮隆太郎が、夏の鎌倉を舞台に、ひとりの若い女性の生き方を描いた。

鎌倉に暮らす21歳の女性みのりは、観光客が立ち寄る小さな甘味処でアルバイトをしながら生活していた。一見普通の女性に見えるみのりだが、実は彼女は普通ではなく……。

こんなにスリリングな作品だとは思いませんでした。

異質な雰囲気が漂う冒頭、いったい誰にフォーカスが当てられ、何が語られていくのか、移りゆくカメラの視点を追いながら、全くわからずに進んでいった先の唐突さ。

これは何とも言えない衝撃でしたね。

謎、謎、謎な展開の中、ぐいぐいと引きこまれてしまう。

開始早々から展開されていくトークの面白さと個々人が見せる人間性が面白い。

「あるある」と思ってしまうような会話劇なんですが、こういう形で見せられると妙な親近感を覚えるというか。

その後も主人公であるみのりを中心にありふれた日常が繰り広げられるわけですが、あくまでもそれはみのりにとっての日常なんです。

かなり変わった性格で頑固。どういった環境がそうさせたのか、それらを匂わす部分はあるものの、決定的なそれは明示されないし、出てくる伏線らしき人間関係も回収されず、とにかく全てがフワッとしている。それなのに引き込まれてしまうし、それでいいとすら思ってしまうんですよね。

そんな様々な人間関係にフォーカスを当て、それぞれの性みたいなものを浮き彫りにしていくんですが、こんな群像劇は初めてで、かなり奇妙な感覚がする。

よく、「人は人、自分は自分」とか「人間同士、所詮は他人でわかりあえない」といったようなことが言われるけど、実際はただ言っているだけな気がするんですよ。

本作にはその違いを会話劇や関係性から描く、独特な群像感がある気がします。

一見すると関係ない様なシークエンスも、根底にある『個の群像性』から考えれば必然的に見え、最後にはすっきりと収束してくる気がする。

みんな自分は普通だと思っていて、そうじゃないと思うと不安になるし悩みもする。けど、それって当たり前で、それでも良いって思える関係性の人と付き合っていけばいいんじゃないでしょうか。

忖度して全員と調和しようと思ってもそれ自体不可能なことだと思うし、それが本人にとって最善だとも思わない。むしろそれで自分の人生を生きていると言えるのかなとすら思ってしまう。

そういった諸々を、みのりは体現しちゃってるんです。悩みながらも。

そんなみのりという人物の存在自体がこの映画には不可欠で、みのり自体が個の群像性を包括したパイプ役になってると思うんです。

個の異質さを持ちながら、相反するような一般受けする容姿も持っている。これが余計に物語をややこしくしているんだと思うんですが、そこが逆に良く効いている。

劇中でも「女の人って可愛い方が得をする」というような会話も出てきますが、本当にそうで、女性からも良いように利用されるし、男性からもちやほやされ、一見すると不自由なく生きていける気がするんですよね。

そんな外見を持ちながら、自分という面倒臭さを認識して生きているみのり。そんな周囲の目線にも冷ややかに客観的に対応するところなんかはメチャクチャ共感できるというか、世界をそういった目線で捉えているところにグッとくるんですよ。

誰の物差しで測ったらそうなるのか、何でそんなことすら考えられない人が多いんだろうかと思えてくる。

皆見えない一般論という名の見えない物差しで測ろうとするからおかしなことになるんですよ。規律や規範のような最低限度のモラルすら守ってれば良いんですよ。

だって皆誰かから見たら変わり者なんですから。

そんな主人公みのりを演じた萩原みのりさんですが、演技が凄く良いですね。監督もキャスティングの時点で考えていたと言っていましたが、ここまでハマるのも見事。

いつも仏頂面な感じに冷めた視線、歩き方。全てがみのりを表現している。

映像的にもかなり独特で、手持ちカメラのある種ドキュメンタリー感。それだけなら良くあるんですが、誰かがストーカーでもしてるんじゃないかというような視点だったり、雑に放置されたカットだったりというのが作品の異様さに寄与している。

あとは持論ですが会話劇が面白い作品は間違いないと思っているので、その意味でもあ本作は完璧かと。

タイトルのお嬢ちゃんという可愛らしいネーミングすらも鑑賞後は皮肉に見えてくるという。

何も起きなかったはずなのに十分に満たされました。有難う御座います。

では。

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