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かそけきサンカヨウ

人間関係は育まれるもの。

『かそけきサンカヨウ


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人気作家・窪美澄の同名短編小説を「愛がなんだ」「街の上で」の今泉力哉監督のメガホンで映画化。

高校生の陽は、幼い頃に母の佐千代が家を出て、父の直とふたり暮らしをしていた。しかし、父が再婚し、義母となった美子とその連れ子の4歳のひなたとの4人家族の新たな暮らしが始まった。そんな新しい暮らしへの戸惑いを、同じ美術部に所属する陸に打ち明ける。

実の母・佐千代への思いを募らせていた陽は、絵描きである佐千代の個展に陸と一緒に行く約束をする。

陽役をドラマ「ドラゴン桜」「ゆるキャン△2」などで注目され、今泉監督の「パンとバスと2度目のハツコイ」「mellow」にも出演した志田彩良、直役を井浦新が演じるほか、鈴鹿央士、石田ひかり、菊池亜希子らが顔をそろえる。

日常に疲れたり、ほっとしたい時に観たくなるような映画ってあると思うんですが、今泉監督作品もその一つ。

本作を観て『サンカヨウ』という花を初めて知ったんですが、この花は本当に綺麗で神秘的。条件が重なり、短い期間だけ見ることが出来る透明の花。

この条件の重なりと物語上の人間関係の重なりなんかも上手く表現されているなと思いつつ、今泉監督作にある、複雑怪奇な人間関係がいつも通り丁寧に描かれていく。

何気ない日常の中に潜む、それぞれの何気無くない葛藤の数々。

この辺が非常に良く描かれていて、誰しもが普通に生活しているように見えて、実際は何かしらの葛藤を抱えながら生活しているんですよね。

さらに本作で描かれるような学生ともなればなおさら些細なことでも大きく感じるだろうし、それは当然の心情かと。

その学生生活を中心として、周囲の大人達にも潜む葛藤も炙り出していく。

怒りや、対立構造を作ることで、この葛藤を描く作品は多いと思うんだけど、今泉監督のように、調和と、バランス、さりげない気遣いで柔らかく葛藤を描いていく演出は本当に素晴らしいと思う。

愛とか、友情とか、家族とか、そういった全てにまつわる関係性を軸に内面を炙り出していくから、観終わった後に浄化されるというか、スッとした気持ちになれる。

誰しもが生活の中で悩むであろう人間関係。

それは身近なところの関係性かもしれないし、そうでないところのものかもしれない。

それでも、本作を観ると感じさせられる、一つの答えがある。

『人を想い、素直に寛容に振る舞うこと』これこそが、自分にとっても、他人にとっても人間関係のベースにあるべき、必要な事なんじゃないか。

こんなこと誰でもわかってるよと思うかもしれないけれど、わかっているのと、行動に結び付けられることは全くもって別物で、実行できていなければ意味が無い。

それが出来れば本作の様な開かれた世界が広がり、周りに対しても、自分に対しても少し優しくなれるんじゃないでしょうか。

作品内でも序盤、中盤、終盤と、その振舞いの変化を通じて関係性が変わっていくところも面白いし、その変化と認識の違いによる示唆も冒頭からさりげなく表現されている。

冒頭での問いに対する陽の答え、「一つ目は愛情で、二つ目は友情かな」。その実が終盤の内容を見た時に腑に落ちるし、こう繋がるのかと思う。

同時に、その場面での父親が制作した音楽から受ける印象の違いを感じ、人は気の在り様で解釈は変わることを感じさせられる。

一番響いたシーンだったのが、陸が沙樹に言われる「好きだから全部言えないんじゃないの」というところ。

陸は陽に告白されたけど、自分の気持ちがわからずにいて、その時に相談した際に言われるセリフなんだけど、これって意外に深いなと思っていて、好きな人には全て言えるし、好きだから言えることがあると無意識に思っていた。

でも、考えてみれば好きだから相手に嫌われるような事や、悩み、相談、見せたくない部分は言えなくなってしまうものなんだろうなと。

その言葉を受けての陸の行動も良かったし、その後の陽と新しい母親、連れ子、以前の母親との関係性へと繋がる流れも完璧だった。

好きな時には全て言えないけど、それが好きを通り越えて愛情に変わると、逆に言えるようになる。

そんな好きから愛へと変わる気持ちの変化をもって、ラストへ繋がる流れは、とにかく人間関係の可能性という枠組みで、最上級の流れを観た気がした。

観るとやさしくなれるようなそんな作品じゃないでしょうか。

では。

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