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美味しさと奇妙さが交錯する不思議な饗宴!『カモフラージュ』で見つかる異世界の魅力とは?

アイドル云々じゃなく、単に文学が好きなんだなと感じられる。そんな短編の集まり。

「美味しさと奇妙さが交錯する不思議な饗宴!『カモフラージュ』で見つかる異世界の魅力とは?」

いつもより荷物の重い日が好きだ。 お昼の弁当に加えても、もう二つ、夜に彼と食べる用の弁当を作る。食べる場所は決まって“ホテル”で ──「ハンドメイド」。僕のお父さんは一人じゃない。お父さんの後ろには、真っ白な顔のお父さんたちが並んでいる ──「ジャム」。
恋愛からホラーまで、松井玲奈が見つめる“人間模様”を描く、鮮烈なデビュー短編集が待望の文庫化。
単行本収録作品6編に文庫書下ろしの「オレンジの片割れ」を加えた全7編を収録。

まず全体に通底する世界観が良いですよね。

なんか不可思議といいますか、興味が惹かれる設定や世界観。

作者が見つめる純粋な世界に対しての疑問符付きの眼差しが感じられ、この純度の高い視点みたいなものが瑞々しいからこそ、短編としての面白い視点に繋がるんだろうなと。

その中でも個人的に印象深かった作品が「いとうちゃん」。

これに書かれていた内容が特に気に入ったといいますか、なぜだか忘れられないんですよ。

現実とファンタジーのバランスであったり、文字としての表現力であったりが生々しく、食べ物や人の表情、思いなんかのリアリティを妙に感じる。

短い話の中、コンパクトにまとまっており、短時間で異世界に連れて行ってくれる感じがある。それでいて起きているのは現実というのも面白く、その地続きな中に存在するある種の曖昧さこそが現実なんだよなと思わされる。

ラストの終わり方もなんか好きで、見えている世界と見えていない世界、そうした実世界の見え方ですら曖昧な中に生きているという部分を希望的に描いている気がして。

帯にも書かれていたんですけど明太子スパゲッティがメチャクチャ美味しそうに描かれているんですよね。湯気まで見えるあの感じ。五感を刺激するあの表現はどこからくるのか。

あの場面、現実とパスタの温度差が対比され、より美味しそうに見えている気もしてはいるんですけどね。

松井さんの書く作品って他の短編もそうなんですけど「現実と空想を行き来している」部分がどの話にもある気がしていて、その現実の曖昧さや空想への憧れ、希望みたいなものを感じるんですよ。

そこにこそ文学としての面白みがあるといいますか。

ホラー味がある作品もそうですよね。

ホラーと聞くと怖いものやおどろおどろしいものっていう印象で、実世界とは関係ないように見えるんですが、実は実世界こそホラーに満ちているというか。

事実は小説より奇なりというように、事実は奇なんですよ、実は。

それを奇に振ると世にも奇妙な物語や都市伝説的なものになるところ、絶妙なバランスで現実に留まっているような作り。

曖昧で空想的な想像から生じるちょっとした揺らぎみたいなフワフワ感があるんですよね。

インタービューでも語られていたんですが、自分とは距離をとった純然たる作品として表現しているというのも納得というか。

全6編の主人公たちを取り巻くシチュエーションは、松井さん自身の現実とかけ離れているのではと思います。自分が経験してきた世界のお話を書こう、とは発想しませんでしたか?

松井 しませんでした。自分からできるだけ離すというか、作品の中に「松井玲奈」を感じさせないようにしたかったんです。例えば村上春樹さんの小説を、村上春樹さんの顔を浮かべながら読まないじゃないですか。純粋に一冊の小説として楽しんで読んでもらうためにも、私自身の存在を連想させるものは出さないって最初に決めたんです。

そんな作品自体の独立性の中に、自分というアイデンティティをスパイスに込めてミックスしている。そんな良さのある作品だと思います。

短編も良いですが次は是非長編が読んでみたいところです。

では。