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会話で綴る時の優雅さ『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』

人の繋がりは時間的優雅さから醸成される。

「会話で綴る時の優雅さ『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』」


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列車の中で出会ったアメリカ人青年ジェシーとフランス人女性セリーヌ。意気投合した彼らはウィーンで途中下車し、14時間だけという約束で一緒に過ごすことにするが……。

リチャード・リンクレイター監督が贈る、極上のラブ・ストーリー。ウィーンの街を歩きながら2人が交わす、時に他愛なく、時に哲学的な会話の数々が光る。

2004年には、本作より9年後の彼らの姿を描いた続編「ビフォア・サンセット」、13年にはさらに9年後を描いた「ビフォア・ミッドナイト」も製作。続編にあわせて本作のDVDタイトルは「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)」になっている。

リンクレイター作品の会話劇は面白いというより、哲学的なウィットに富んでいるなと思わされるわけですが、この作品もやっぱりそういうところが好きなんです。

見る年齢や状況により視聴感も変化していき、余白を愉しむというか、時間を堪能できるといいますか。

今の時代と逆行しているかのような作りだなとは思うんですが、それが心地良く、だからこそ響いてくるような気がするんですよね。

冒頭の始まりなんかも、今だとあまり考えられないシチュエーションだと思うんですが、電車で長時間移動するというところから生まれる偶発的な出会いって良いじゃないですか。これ憧れますね。

食堂車があるっていうのも良いですし、絶景も堪らない。今だとスマホを見ている人がほとんどの中、当時はそれが本っていうところにもグッときます。

冒頭での夫婦喧嘩が発端となり物語が転がっていくというのも、先の展開と対になっている感じがしますし、それに対するアンチテーゼ的な意味合いも強く感じますね。

夫婦になるとなぜ関係性が悪化していくんでしょうか。付き合っていた当時の感覚を忘れ、それこそ煙たい存在としてお互いを認識してしまう。そうした難しさがあるのが人と人の関係性だなと思うわけですけど、それを端的に描くことで作品への没入感を高め、それによる引きも強いんですよ。この始まりのフックが強いからこそ、後々の展開も生きてきますし。

本作は終始ドキュメンタリーのようなタッチで描かれていて、カメラワークなんかもドキュメンタリーのようなショットで繋がれていくんですよね。特別な演出も無く、進んでいくのはただの日常的ともいえる会話劇のみ。

なのに俄然引き込まれる。

会話劇が面白い映画って個人的には良い映画認定されるわけですけど、中でもリンクレイター作品は異質というか。それ以外際立った変化が無いのにここまで魅力的に描けるのは凄いなと、毎回思わされるんですよ。

本当に日常にありふれた、ちょっと特別な瞬間を切り取っているというか。

映像的にも動きや変わった演出は無いものの、その街並みや風景、構図内での様子なんかを丁寧に切り取っているため、情報量と情報力が充満した画作りになっている気がします。

特に好きなのが、レコード屋での試聴ブースでの一コマ。

曲が流れ、二人を画角に収めてのただただ長回し。それなのに二人の表情や仕草、視線なんかを見ていると見れちゃうんですよね。むしろ見ていたいというか、それぞれの思いや感情が気になり、余計に見入ってしまう。

あとクラブのシーンも良かったですね。

メチャクチャ悪そうなクラブ内でも、自然な感じでガンガン入って行く。二人だから出来ることだし、二人の空気感の中では普通に感じる流れ。中での会話も非常に哲学的で興味深く、ピンボールをやりながらというのもなんか良い。入口での入場料をジェシーが払い、セリーヌが「中でビール奢るね」というやり取りもさり気ないけど相性の良さを感じる違和感の無さ。

二人が親友に電話して相手のことを話すというのも良かった。

これは自分もやりたい。なにより面白そうですし、その光景も非常にチャーミング。それでいて聞きたい本音を聞き出せるって。一石二鳥超えてますって。

こんな感じで良いシーンを挙げるとキリがないくらい、さり気ない良さで溢れているのが本作、「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)」。

会話の中にもそれこそ名言めいたものがいくつもあるんですが、特に好きなものをいくつか。

①「自分自身の中に平和を見付ければ、他人との真の関係を見いだせる。」

確かにその通りで、自分の心が穏やかで満たされてなくて関係性の最善なんて気付けるわけが無い。それは恋愛でもそれ以外でも言えること。

②「恋愛とは孤独でいられない男と女の、逃げ道なんだ。世間で言われていることとは逆だよ。愛は寛大で懇親的だというけど、愛ほど利己的なものはない」

これも愛を利己的とする考え方。利他的であるはずの愛を突き詰めると、そうだよなと思ってしまう説得力。

③「もし神が存在するのなら、人の心の中じゃない。人と人の間のわずかな空間にいる。この世に魔法があるなら、それは人が理解し合おうとする力のこと。たとえ理解できなくても、かまわないの」

理解できるか理解できないかが重要でなく、理解しようとするそのこと自体が重要で、そこに神や魔法といった特別な力が内在しているというのもホントそう思う。結論や結果を重視するより、その過程、なんなら過程以前に心持ちを変えることが重要なことなんじゃないかと思わされます。

④「相手を知れば知るほど、その人が好きになる。どう髪を分けるのか?どのシャツを着るのか?どんな時にどんな話をするのか。全てを知るのが本当の愛よ」

冒頭の夫婦喧嘩を考えればわかるけど、基本的には知るからこそ衝突する。それは知らなければ衝突する事柄自体が無いわけだし、自分の心持ちもそうした寛容さを許容しているから。それが慣れ親しむことで知り、そうなると粗が見えるという皮肉を別の角度からみることで解決する。というかそうした努力をしなくとも自然と出来れば、それは愛があるといえるわけですからね。

⑤「人間は移ろいやすく、束の間の存在」

気持ちも人間そのものも、移ろうことは避けられないわけで、それを受容した上でどう心持ちを意識するか。受け入れるから受け入れられ、だからこそ深い関係性が気付けるんでしょうね。

⑥「時には、良き父や良き夫になる事を夢見たりする。しかしある時は、それが全人生を台無しにするようなバカげた事に思えてしまうんだ。」

これも既婚者の誰しもが一度は思うであろうこと。結局ないものねだりで、本質を見失うからこういう考えが起きてしまう。でも、それは絶対に避けられない自然なことで、それでも都度立ち返り考え、自問自答するという姿勢も大事なんじゃないでしょうか。

⑦「これは未来から現在へのタイムトラベル、若い頃失ったかも知れない何かを探す旅。君は”何も失っていない自分”を発見、僕はやっぱり退屈な男だった。君は結局その夫に満足する」

この考え方をあの場面で言えちゃうセンスに脱帽ですよね。ロマンしか感じないし、嫌味が無い。こういう既知に富んでいる感じが好きなんですよ。リンクレイターの。

これ以外にも名言のオンパレードなんですが、長くなり過ぎるのでこの程度で。

配役もメチャクチャ良いんですよね。絶妙で。

ほぼ、イーサン・ホークジュリー・デルピーで進んでいくんですが、二人の雰囲気や容姿、佇まいがちょうどいい。

気が合いそうだなと思えてしまうし、ちょっとした仕草なんかからも相性の良さがにじみ出ている。

街を歩き会話をする。たかが14時間だけの時間を凝縮した映画ながら、映像的にも物語的にも満たされてしまう、稀有な映画だと思います。それでいてオシャレさとかに全ふりしたアート系映画にならず、面白いんですから。

ちょっと続編も続けて見返そうかと思います。

では。