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詩的な風景と人間の奇妙な魅力に酔いしれる、ロメール監督の銀熊賞受賞作『海辺のポーリーヌ』

「詩的な風景と人間の奇妙な魅力に酔いしれる、ロメール監督の銀熊賞受賞作『海辺のポーリーヌ』」


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エリック・ロメール監督による「喜劇と格言劇」シリーズの第3作。

海辺の別荘で6人の男女が織り成す恋愛模様を、思春期の少女ポーリーヌの目を通して描く。

15歳の少女ポーリーヌは、年の離れた従姉マリオンと一緒にノルマンディの別荘へバカンスにやって来る。海辺へ出かけた2人は、マリオンの元恋人ピエールと出会う。ピエールは現在もマリオンへの思いを引きずっていたが、マリオンはピエールの知人であるプレイボーイのアンリに恋をしてしまう。

一方、ポーリーヌは海辺でウィンドサーフィンをしていた少年シルバンと親しくなるが……。ベルリン国際映画祭銀熊賞と国際批評家連盟賞を受賞した。

人間ってオモロイ。そんなことを思う作品の雰囲気では無いと思うんですが、ホント人間って不思議で面白い生き物だよなと思わされる。

この時期って、どうしても”夏”にフォーカスが当たりがちなんですが、この作品も舞台はフランスの北部。タイトルにもあるように海辺を中心としたひと夏の会話劇がメイン。フランスで夏というと南部のイメージが強いんですが北部も意外に良き風景でした。

前にも書いた気がするんですが、フランス映画ってどこか詩的だったり、哲学的だったり、小難しい印象が多いと思うんです。しかも長くて退屈なイメージ。

それが夏となると舞台のカラッとした風景だったり、リゾート的な雰囲気が出てきたりと、かなり優雅で美しいイメージに変わる気がするんですよね。

そんなフランス映画的な抵抗感が薄れる要因として挙げられるのがまず、上映時間。91分と観易く、全然長さを感じない。それにプラスして、話であったり展開も面白い。要するに見やすいわけです。

内容はというと、起きていることはくだらないと言ってしまえばそれまでのことなんですが、描き方が良いんですよ。フランス人特有のユーモアであったり、空気感だったりも相まって、コメディにすら見えてくる。「喜劇と格言劇」シリーズって言われるくらいだからそれも意図したものだったんでしょうね。

そうした表面上のことだけに留まらず、さすがロメールというような含みも見事。

人の内面性であったり、葛藤、日常生活の些細な機微を、ニュアンスある表現で描くのが上手いなと。実際哲学味を帯びたような深いテーマ性を持ち合わせていることもこの作品を興味深くしている部分だと思っていて、開放的な風景と空間、それと対比するような形で根源的な人の滑稽さが浮き彫りになってくる。

出てくる人物たちも全員魅力的で、人物の配置や設定なんかもコンパクトで良いんですよね。その中での群像劇的な見せ方も理解しやすく、それでいて内面の心理描写は複雑という面白さ。

”愛”というものにフォーカスが当たっているんですが、人間の感情ってそれ自体が不安定じゃないですか。とりわけ愛というのは厄介で、他者と自分を天秤にかけながらバランスをとっていかなくてはいけないわけで。

自分自身の感情コントロールも難しいのに他者との調和も取るという難しさ。しかも、恋は盲目という言葉もあるくらいで、恋から愛にいく過程には様々な惑わしや誘惑がいくつもあるわけでして。

そんな登場人物たちの中で抱いている”愛”に関する思惑じみた揺らぎが徐々に紐解かれていく感覚が非常に興味深く描かれているんですよね。

冒頭で出てくる字幕の「口多きものは災いの・・・」みたいな格言も観終わった後でジワリと響いてきます。

そんな詩的な文章と風景のフィックスで始まる冒頭も中々好みで、物語を予感させる門に始まる感じ。それと同様のカットで終わる感じも併せて考えると、なお良し。実にフランス的だし、非日常感、切り取り方の冥利がメチャクチャ好み。

シチューエーションとしては非日常的なバカンスなものの、そこで繰り広げられる日常感が良いんですよね。

誰の視点から見るかで変わってくるこの群像劇を酒でも飲みながら、真昼間に堪能したいものです。

では。