『ヒットマン』
「6才のボクが、大人になるまで。」のリチャード・リンクレイター監督と「トップガン マーヴェリック」のグレン・パウエルがタッグを組んだクライムコメディ。警察への捜査協力のため偽の殺し屋を演じていた大学教授が、殺しを依頼してきた女性と恋に落ちたことから運命を狂わせていく様を描いた。
ニューオーリンズで2匹の猫と静かに暮らすゲイリー・ジョンソンは大学で心理学と哲学を教える一方、地元警察に技術スタッフとして協力していた。ある日、おとり捜査で殺し屋役となるはずの警官が職務停止となり、ゲイリーが急きょ代わりを務めることに。さまざまな姿や人格になりきる才能を思いがけず発揮したゲイリーは、その後も偽の殺し屋を演じて警察の捜査に協力する。そんなある時、マディソンという女性が夫の殺害を依頼してくるが、支配的な夫との生活に傷つき、追い詰められた様子の彼女に、ゲイリーは思わず手を差し伸べる。この出会いで2人は恋に落ちるが、後日、マディソンの夫が何者かに殺害され……。
1990年代に偽の殺し屋として警察のおとり捜査に協力していた人物の実話をもとにした作品で、主人公ゲイリー役のパウエルがリンクレイター監督とともに脚本も手がけた。マディソン役は「モービウス」のアドリア・アルホナ。
これはコメディで良いんだよな。そう思わせるような真面目さとブラックさに溢れた本作。
のっけから笑える要素満載でスタートするわけですが、そのユーモア性は終始健在で、同時にリンクレイター監督十八番の会話劇、出来事の面白さ、会話のウィットネスにも富んでいる。
正直序盤から途中までは「これって、まさかこのままの展開で進むってことは無いよな」と内心で思いつつ、そこはリンクレイター。しっかりと予想以上のドタバタ劇に展開していきます。
こうした変化含め、徐々に変わっていく部分と急激に変わっていく部分の見せ方も絶妙で、相変わらずこういう変な仕掛けは炸裂してますね。
ヒットマンといういわゆる殺し屋を題材にしつつ、それがどういった殺し屋なのか、序盤でその種明かしはすぐされるわけですが、むしろ本題はそのあとからなんですよ。
あんなにすぐ人格が変われるのかという疑念もありつつ、グレン・パウエル演じるゲイリーの職業を鑑みれば納得いくところもある。
そんな教師として行われる授業も、物語のプロットをなぞっているような脚本と迎合し、その後の示唆性にもつながっていますよね。
明らかに変化していく自我に対し、教師目線から描いていくという構成。本筋を映画内の中心軸ととズラしていく見事さも相まり、とにかくハメ方が素晴らしい。
そして映像としてそれらを見せていく流れというのもスマートでした。
発言等にも含みがあり、冒頭にあった「危険は人生のスパイスであり、時には危険を冒さなければならない」的な発言もそう。
それはまだ自分が成していない、憧れともとれる願望と受け取れ、それを象徴するかのように、序盤での依頼者と会う時など、構図にも工夫がなされているように感じる。
左右どちらかに寄ったものになっており、自分が構図の中心にはいないんです。ようするに自分の人生にピントが合っていないんですよね。
自分では満足した人生を送っていると言いつつ、潜在的な欲求としては満足できていないことを感じさせる。
話が進み自我からエゴに進む過程で、自信と欲を叶えながら構図が中心へと移っていく。同時にバックショットも増え、客観的な視点から主観的な視点も増え、自分の人生を生きているという実感さえもが伝わってくる。
ジャスパーというキャラも良かったですよね。
終始におわせを感じさせつつ、しっかりとクズっぷりを損なうことなく、意外に賢い部分も後々に効いてくるという役どころ。
ラストに向けての重要性は「なるほどね」と。
そうした流れを汲みながら、スパイラル式に混沌を飲み込んでいきハレーションしてラストへ向かっていく。それでいてラストでの潔さがコメディの呆気なさもありで良かった。
なんせあそこで細かく語られたらなんか興ざめですからね。
いずれにせよリンクレイター監督らしいウィットに富んだ作品で、会話劇も相変わらず面白いツボを突いてくる作品でした。
そういう話がお好きな方は是非。
では。