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人生は機微に気付けるかどうか『PERFECT DAYS』

「人生は機微に気付けるかどうか『PERFECT DAYS』」

ポスター画像

パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」などで知られるドイツの名匠ビム・ベンダースが、役所広司を主演に迎え、東京・渋谷を舞台にトイレの清掃員の男が送る日々の小さな揺らぎを描いたドラマ。2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、役所が日本人俳優としては「誰も知らない」柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる男優賞を受賞した。

東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山。淡々とした同じ毎日を繰り返しているようにみえるが、彼にとって日々は常に新鮮な小さな喜びに満ちている。昔から聴き続けている音楽と、休日のたびに買う古本の文庫を読むことが楽しみであり、人生は風に揺れる木のようでもあった。そして木が好きな平山は、いつも小さなフィルムカメラを持ち歩き、自身を重ねるかのように木々の写真を撮っていた。そんなある日、思いがけない再会を果たしたことをきっかけに、彼の過去に少しずつ光が当たっていく。

人生って、なんなんだろう。

こう思うことってしばしばあると思うんですが、これに対する一つの答えを丁寧、かつ贅沢な映像で見せてくれる本作。

若いころって、それこそ日々激動というか、毎日が新鮮で、何かを求め、何かに期待し、何かの為に頑張ったり、落ち込んだりしていた気がするんですよね。

それが大人になると相対的に起伏が減り、平坦で当たり前の日常が普通になってくる。

そうなると、それっていいのかなとか、それって面白くないじゃんと思うかもしれないんですが、実際には起伏も変化もあるわけですよ。

ただ、些細な変化であったり、慣れであったりと認識しずらくなってくるんだと思うんですよ。

それをいかに知覚できるか。

この作品自体はそういった”日常”というものにフォーカスし、あくまでも淡々と映像が紡がれていくんですよね。

まるで主人公の平山の生活自体をなぞるようにただただ美しく、日常の微細な表情を描いていく。

これが実に心地良く、ヴィム・ベンダースは本当にこうした機微の描き方が上手だなと思わされるわけです。

主演の役所広司も良いんですよ。

演技の幅広さは言うまでも無いんですが、なんていうか存在感、佇まいそのものがメチャクチャ役柄にハマってるんですよ。

寡黙で口数は少ない役なんですが、表情や仕草などから伝わってくる様々な感情表現がなんとも絶妙に波長があっていて。

本作を観て、序盤に思っていたのは、マジでこれでいくのかといったもの。

平山の日常を描き、メインとなってくるのはトイレ掃除という仕事なんですよ。

これで124分持たせるのはキツそうだなと思いつつ、いつの間にかその世界観に馴染み、段々とそれすらも心地良く、むしろ平山が感じている日常の微細な変化にこちら自身も気付かされていく感じがしてくるんですよね。

シンクロというか調和というか。

トイレ掃除という全く面白味の無い職業にフォーカスしたからこそ得られる機微なのかと思えるほどで、最後にはそれで良かったとすら思ってしまいました。

あとはそれと対比する形での休日シークエンス。

特に変わったことをするわけでも無く、けれども、自分の好きな些細な趣味を堪能していく生活が描かれていく。

日常における幸せの本質って、こうした”ささやかな楽しみ”をいかに楽しめるか。そういったことにかかっているのかなと思ってくるわけですよ。

カセットで音楽を愉しんだり、植物の手入れをしたり、写真を撮ったり、行きつけの店で酒を飲んだり。

アフター5であっても軽く晩酌をしたり、読書をすることで得られる幸福感があるわけで、それに満足できるかどうか。

要するに個人が抱く”満足感”の問題なんですよ。

”これじゃ不満”と思うのでなく、”これで満足”と思えるかどうか。

その違いが生活、ひいては人生の充足感に繋がってくるのかなと。

心を豊かにし、目の前の出来事に集中することで見えてくることってあると思うんですよ。

終盤で木漏れ日について説明が出るんですが、それが作品全体を通してある、一瞬の気付きなのかなとも思えてきますし。

木漏れ日(こもれび)」は、日本語の言葉で、森や木々の間から差し込む日光のことを指します。太陽の光が葉っぱや樹木の間を通って地面に降り注ぐ様子を表現した言葉であり、しばしば森や林の中で見られる幻想的で穏やかな光景を指します。

だからこそ平山はフィルムカメラで木漏れ日を捉え、日々の生活の機微に”眼”というレンズを通してフォーカスを当てる。

そんな曖昧な一瞬の中にこそ、当たり前の幸せが潜んでいるのかもしれません。

本筋的な部分の話が増えましたが、映像や音楽なんかもメチャクチャ良いです。

まず映像。

木漏れ日といった光の捉え方を意識していればこその美しさが存分に表現された画作り。

特に印象的だったのがフレアやゴースト、玉ボケといった光源を生かした美しい表現。

夜のシーンでの玉ボケはすごく綺麗で、人物に当たっているフォーカスとともに、その背景の美しさ、写実的で幻想的な映像は、物語上の雰囲気とマッチし、とても印象深いシーンでした。

音楽も冒頭から「来るぞ、来るぞ」というカセットの演出からキタッーと思うチョイス。

一番痺れたのが表題にもなっているルー・リード「Perfect Day」でした。

歌詞に含まれる重みと渋み、サウンドの哀愁から作品との重なりも最高潮で、人生の充足を感じさせられました。

個人の体験(平山の生活)と楽曲の重なりを感じるような選曲や沁み込んだ人生観、そうした”身になっている”楽曲というのはこうも彩を与えてくれるんですね。そういったことが良く表現されていて気がします。

サントラも是非聴き込んでいきたい作品になりました。

そういえば作中に出てきた文庫「木」というのもどういう本なのか気になりましたね。

木というものから感じる生命力とパワー。自然が持つ力というのは儚くも美しく、とても力強いということを感じた作品でもありました。

機会があれば読んでみたい作品です。

では。