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負け犬の美学

負けても負けない。

負け犬の美学

ポスター画像


映画『負け犬の美学』予告編

アメリ」でヒロインの相手役を演じたマチュー・カソビッツが、家族のために奮闘する落ち目のボクサーを熱演したフランス製ヒューマンドラマ。

最盛期を過ぎた40代のプロボクサー、スティーブ。彼は愛する家族のため、そして自分自身の引き際のために、欧州チャンピオンの練習相手に立候補するが……。

劇中のボクサー、エンバレク役には、WBA世界スーパーライト級王者のソレイマヌ・ムバイエを起用。

監督はこれがデビュー作となるサミュエル・ジュイ。2017年・第30回東京国際映画祭コンペティション部門出品(映画祭上映時タイトル「スパーリング・パートナー」)。

年々、負けることやチャレンジすることに及び腰になってきている気がする。経験が邪魔しているのか、恥ずかしさなのか、とにかく積極性が薄れてくる。そんな年始に本作は痺れた。

年末に格闘技経験者と話す機会があり、そのことで再びの興味を持った格闘技。そして、観たい作品リストに入れていた中から本作をピックアップ。このチョイスは間違って無かった。というか良過ぎた。

フランス映画らしい作りで、基本的には何も起きない。それなのにカメラワークや表情の機微などから物語の豊かさに膨らみを持たせてくる。こういうどこと無い説得力を積み上げていく映画は好きで、ハマると強い。あくまでも個人的にですが、本作は見事にハマった。

完全に負け組だし、カッコ良くもない。そんな主人公の人との関わり方を通して、日常を丁寧に見せることで、不思議とカッコ良く、誇らしく思えてくる。

子役の演技も素晴らしく、屈託無い表情や発言から主人公である父親との良き関係性を彷彿とさせるし、母親との関係性も自然で、日常の積み上げがその人となりを作り、真のプライドを作るのだという妙な説得力が出てくる。

前にカメラワークが良いと書いたが、これが個人的に一番秀逸だと思っているところで、絵画的に日常を切り取る。優雅に、それでいて普通の日常を撮ることで、どことなく親近感を得られるし、なんとなく心地良く感じてくる。この塩梅が不思議で、写実的過ぎない小物使いとか日常性がそうさせてるのかもしれない。

ボクシングシーンも絶妙な見せ方で、下方向ないし隙間からの一見観づらくなるような視点から撮ることで、逆にその対象を意識させる。この荒さが起きている真実性を晒しているし、あえて映さないシーンにもこだわりを感じる。ラストでのあえて見せないシーンには憎い演出を感じた。

カメラワークの部分でもそうなんだろうけど、本編を通してずっと感じたのが『心地良い対比性』。チャンピオンと落ちこぼれの主人公だったり、動的なカットと静的なカットだったり、勝ちと負けであったり、表面上の見え方と内面の豊かさだったり、試合時の当事者と観客の視点であったり。

この対比性が何も起きない物語にドライブ感を与えているし、映像のナチュラルな美しさが心地良さを担保している。そんな両輪を持って与えられる映像に気付けば泣いていた。

なぜ泣いたのかわからない。そこまで感傷的になるシーンだったわけでも無い。それなのにそれまでの積み上げにカタルシスを感じ、ただ泣けてきた。

頑張る人は耐えられる人だし、勝った人が負けた人より偉いわけじゃない。続けることの大切さを丁寧に描いた本作だからこそこれだけのカタルシスがあったんだと思う。そして、それをただ気持ちよく見せるだけじゃなく、そういった人でも感情の浮き沈みがあり、決して聖人君子ではないという風に描いていたのも良かったんだと思う。

結果として、チャンピオンに公開スパーリングで馬鹿にされた後言われた「本当にすまなかった、君は勇敢だ」と言うセリフ、終盤で、子供が主人公である父親に言った「私のパパだから」、そして最後の試合前に妻に言われた「立派だわ。オロールもオスカルもパパが自慢」といったセリフが出てきたのだと思うとまた泣けてくる。

負けたり失敗したりすることを恥じることなく、何もしないことを恥じる人間になりたいと思った。

年始から良い映画に出会えました。

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