ギークの作り方。
『ナイトメア・アリー』
「シェイプ・オブ・ウォーター」でアカデミー賞の作品賞ほか4部門を受賞したギレルモ・デル・トロ監督が、ブラッドリー・クーパーはじめ豪華キャストを迎えて送り出すサスペンススリラー。過去にも映画化されたことのある、1946年に出版された名作ノワール小説「ナイトメア・アリー 悪夢小路」を原作に、野心にあふれ、ショービジネス界で成功した男が、思いがけないところから人生を狂わせていく様を描く。
ショービジネスでの成功を夢みる野心にあふれた青年スタンは、人間か獣か正体不明な生き物を出し物にする怪しげなカーニバルの一座とめぐり合う。
そこで読心術の技を学んだスタンは、人をひきつける天性の才能とカリスマ性を武器に、トップの興行師となる。しかし、その先には思いがけない闇が待ち受けていた。
スタン役を「アリー スター誕生」「アメリカン・スナイパー」などで4度のアカデミー賞ノミネートを誇るブラッドリー・クーパーが務め、2度のアカデミー賞受賞歴をもつケイト・ブランシェットほか、トニ・コレット、ウィレム・デフォー、ルーニー・マーラらが共演した。
2022・第94回アカデミー賞では作品賞に加え撮影、美術、衣装デザインの計4部門にノミネート。
相変わらずのダークな装い。
終始場面の暗さ、それでいてどことなく柔和な光の使い方など、ファンタジックな世界観はそのままに、十八番のグロテスクな演出はしっかりと盛り込まれておりました。
デルトロ作品を観ていて毎回楽しみにしているのがそれといっても過言では無い程、造形的な美術であったり、世界観であったりの諸々。
正直なところ、上映時間は長いかもしれないと感じましたね。
というのもかなりの時間、物語的な運びといいますか、全体像といいますか、その辺の内容が入ってくるようでいて、芯を捉えられない感じ。
そんな感じで点の状況把握が続く映像が続き、観ている映像自体は興味が湧くものの、抑揚があまりないような展開が続くんですよね。
点で観た時の抑揚はあるんですが、線で観た時のそれが無いといいますか。
まあその辺も全ては伏線の為にあると思えば、納得する所でもあるんですが、せめて120分くらいに纏まっていると観やすかったのかなと。
それにしても冒頭での移動式遊園地、カーニバルは驚きましたね。
そういったものがあったことは知っていましたし、どういったことが行われていたのかもある程度は知っていたものの、デルトロの世界観で画として見せられると俄然ワクワクすると言いますか、おぉ、と思ってしまうくらいに感心してしまう。
とはいえやっていることはマジでどうしようもない人間の側面を見せられますし、人間の欲と業を感じます。
今でも大意は変わらないんだと思いますが、それをあそこまで露骨に見せていた当時を思うと、世の中は多少なりとも変わっているんだなとも思わされます。
中でも一番驚いたのが地獄を再現した見世物小屋。
これぞデルトロな造形物と、やっぱり生々しい水の演出。ぬめっとした世界観と共に空気感まで漂ってくるリアリティは抜群だなと。
作品自体のテーマ的なところは意外に分かり易くて、私自身の見解としては『円環』と『慣れ』かなと。
円環に関しては終始それらを示すモチーフも出てきますし、最後まで観た時、その意味する本当のところはこれ以上ない程しっくりくる。
人の性は廻り廻るし、縁もそう。
結局は繰り返すし、帰ってくることになるのかと思うと、行いや振舞いは気を付けなければなとも思わされる。
慣れに関しても同様で、人間は欲深いし、そのハードルは慣れと共にいくらでも増幅していく。
それは欲以外にも、愛情、生活、人間関係、仕事、考え方。
全ての慣れがインフレを起こして、結局取り返しがつかないほどに膨れ上がってしまう。
劇中でモリーが言っていた電気に慣れる件の話は一番ストレートにそれを物語っていて、結局嫌なことも良いことも慣れてしまえば同じようなもの。
ただしそれが生み出すものは虚無しかない。
諦めと聞けば聞こえはいいが、実のところただの放棄に過ぎないのかもしれないと思うとやるせない気持ちにもなる。
ともあれ映像としては確実にデルトロ印ですし、終盤での怒涛の展開には確実に驚けるかと思います。
しっとりとしたトーンで薄暗い場面が多い作品なので映画館の様な大スクリーンで観た方が確実に映える作品じゃないでしょうか。
では。