このジャケットと世界観にやられた。
『ワインズバーグ、オハイオ』
オハイオ州の架空の町ワインズバーグ。そこは発展から取り残された寂しき人々が暮らすうらぶれた町。
地元紙の若き記者ジョージ・ウィラードのもとには、住人の奇妙な噂話が次々と寄せられる。
僕はこのままこの町にいていいのだろうか…。両大戦に翻弄された「失われた世代」の登場を先取りし、トウェイン的土着文学から脱却、ヘミングウェイらモダニズム文学への道を拓いた先駆的傑作。Star Classics名作新訳コレクション。
1900年代前半に書かれ作品とは思えない既視感。
やはり時代が変わっても、変化し続ける『町』という場所がそう思わせるのか。はたまた人の在り様なのか。
なんとなく『町』が舞台になっている作品って好きで、映画にしろ本にしろ、そういうある種の閉鎖的で、色々な人間模様やちょっとした謎、その中での意外なつながりのあるところに惹かれるんですよね。
中でも『ツインピークス』は個人的に印象深い作品で、学生の頃に観た、衝撃というか、なんとも言えない印象が強く残っています。
ここまでの謎や陰謀は無いものの、若い頃、誰もが住んでいる『町』という場所で起きる、ちょっとした不思議だったり、都市伝説的なものに興味を抱いたことでしょう。
本作は短編の集積のような体をとっているんですが、全編を通してワインズバーグという架空の町が舞台になっていて、その住人一人一人にフォーカスが当たる形で物語が進んでいく。
そのフォーカスの当て方と切り口が良いなと思っていて、単にハッピーな物語に終わらせない、リアルさと奇妙さを内包し、複雑だからこそ面白い。
住んでいる人にもそれぞれ過去があり、現在があり、未来がある。それを美化することなく淡々と切り取る。故に、個々の卑しい部分やドロドロした部分、欲望や羨望といった側面も見えてくる。
絶対に自分でも当てはまるなと思えるような住人も登場するし、わからないけど、分かるような気がする人達も出てくる。
町内図が冒頭に描かれているので、そこに戻りながらイメージを膨らませていきつつ、読み進めるのも楽しいかと思います。
誰にでも懐かしい町があって、何でもないけど何かがあった、そんな日常を呼び起してくれる気がする作品でした。
これは一回でも楽しめますが、折り入って何度も読むことで新たな気付きが得られる、するめ小説な気がしています。