松本大洋の短編作って正直どれ良いっていうわけじゃないんですけど、絶対に何かしら引っ掛かる作品はあるんですよね。
これが面白いなと思っていて、この『日本の兄弟』においても、そう。
『異色のキャラクターとカッコいい描写に魅了される!”ダイナマイツGONGON”のメカニックバトル~日本の兄弟編~』
中でも個人的に引き込まれたのが『ダイナマイツGONGON』。
バイクレースを扱った作品なんですが、主人公はなぜかゴリラ。そしてメカニックは人間という異色の世界観。
まずこの設定からさすがの松本ワールドなんですが、何が良いって、出てくる描写がカッコいいんですよ。
別にメカがそこまで好きなわけでも、バイクがそこまで好きなわけでも無いのに感じてしまうカッコよさ。
車体や服装、ロゴや工具、至る所に散らばっている画そのものがとにかく好み。
臨場感もあって、こういう世界もカッコいいなと思わせてくれるところにとにかくグッとくる。
レース自体の興奮もそうで、短編と思えないほどアガる。
画の構成と見せ方が上手いからそう思えるんでしょうね。一コマの雑多な感じや情報量多めな感じもこういった臨場感が必要な勝負事に相性が良さそうですし、世界に没入する感じが心地良い。
出てくるキャラクターが立っているっていうのもポイントで、メカニックの五郎も良い味出してるんですよ。ライバルのミーシャなんかも。
物語自体もなんか惹かれるところがあって、どういう物語かというとこんな感じ。
アニマルも擬人化され、言語を話し、人間と勝負の世界の中である種対等に競い合うことが出来るようになった世界が舞台。その中での差別や友情、愛情、勝負事。
ライバルが熊というのも中々シュールで、この熊、ミーシャというのは人間に家族や仲間を殺されたことから人間を恨み、「人間に飼われている」という表現を使うように、心の底から人間を毛嫌いしているキャラクター。
対するゴンゴンもミーシャと同じような境遇なんですが、そういった括りに固執すること無く前を向き、本質を捉えて生きている。
実世界でもそうですけど、カテゴライズされた何かへの恨みが肥大化して相対化されがちな中、本当はそんなことはあり得なくて、個別の事象に対してそう思っていることがほとんど。
であるならば、しっかりとそういった個を選別し、自分の目で見て判断し、決めていくことこそ必要なんだろうなと思うわけですよ。
もうその辺のコンパクトな見せ方も見事ですし、何より世界観がこの短編内でも良くわかる。できれば、この話で長編が見たいくらいです。
それでは。