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ヴァスト・オブ・ナイト

何となく引き付けられる。それがSF、それでこそSF。

『ヴァスト・オブ・ナイト』

UE神(@zzombiee)/Page 4 - Twilog

1950年代アメリカの小さな田舎町を舞台に、奇妙な周波数の音を受信した男女がその正体を突き止めるべく奔走する姿を描いたSFミステリー。

1958年。ニューメキシコ州のとある田舎町では、多くの住民が高校のバスケ試合を観戦するため体育館に集まっていた。そんな中、電話交換手の仕事をする女子高生フェイは、地元のラジオDJエベレットと他愛ない会話を交わしながらそれぞれの職場へと向かう。

交換台の席に着いたフェイは、電話回線から奇妙な音を受信するなど不可解な現象が相次いだため、ためらいながらもラジオ放送中のエベレットに相談する。エベレットがその音をラジオで流すと、同じ音を聞いたことがあるという元軍人の男から電話が入る。

監督はこれが長編デビュー作となる新鋭アンドリュー・パターソン。

寒くなってくると必然的に観たい映画も変わってくるものですが、今回はSF作品。

インディペンデント作品が出品されるスラムダンス映画祭で観客賞を受賞した本作ですが、コロナの影響もあってか権利を取得したアマゾンがプライムビデオで無料配信しました。

個人的に公開前からツイッターなどで気にはなっていたものの中々気分がフィットせず、今更ながら観てみたんですが、タイミング的に見事にハマりました。

冒頭からトワイライトゾーンオマージュを感じる作りにレトロさが漂い、そのままスクリーンに引き込まれ、人間関係や状況もわからぬまま、テンポよく会話だけが描かれていきます。

どことなく人物描写や画作りの感じがリンクレイター、リンチ、シャマランといった雰囲気を感じさせてつつ、このテンポのいい会話劇に物語への興味をかきたてられます。

この冒頭のエベレットとフェイの未来話しが最高で、舞台となる1950年代には想像もしなかったであろう、スマホの登場を語るところなんかは、凄い感慨深い。今自分たちが想像しうる何かは未来の誰かにとっては当たり前になるかもしれない。そんな希望とワクワクが増幅される良い描写でした。

その後も謎なノイズが出てくること、上空に何かいるということが提示されるものの、具体的に何か起こるわけでも無く、そういったものを見せられるわけでも無く物語が淡々と進むわけですが、何が良いってそこが良い。

全容を把握できない立場である『一般市民=視聴者』という構図を敷くことで、いったい何が起きているのか、わからないけど知りたくなるといった強烈な没入感を演出しているのも大きな特徴かと思います。

SFの原点って想像力だと思っていて、余白を多く残して、心地良い疑問を心地良い形で提示する。それが重要だと思っているわけで、本作はその興味を存分にかきたてられる作りになっているんじゃないでしょうか。

何も無い時代を想起させ、そこに映像的説得力を持たせる。そこに会話だったり、サントラだったり、効果音だったり、環境音だったりといった音像がレイヤーしていく感覚は大変心地良く、サウンドデザインが絶妙。今の語り過ぎな世の中に無い、没頭する楽しみが提供されている。

作品の時間もちょうどよく、間延びしたり、退屈になったりする感じも無い。それでも視聴後に残る残像だったりが程よく残っていて、とにかく視聴中も視聴後も良い余韻だった。

演出としても、フェイの電話交換時のケーブル捌きは圧巻の一言だし、エベレットのDJもそう。手元のカットが効果的に入っているのも、只々カッコいい。

カッコいいと言えば、出てくるセットやカットも何だか雰囲気があってカッコいいし、エベレットのスタジオ上に付いているWOTWのネオンサインもカッコいい。機材の細部なんかや美術のそれも素晴らしい質感で、画に深みと奇妙な吸引力が付加されているように思う。

途中、フェイの電話交換所からエベレットのスタジオまでの長回しも凄かった。あれはどうやって撮ったのかと思い、調べてみると、ジンバルの付いたゴーカートに乗り、リレー方式で撮影、それを繋いでいったとのこと。あのカットが入ることで起きている街の全体像や雰囲気が感じられるし、『何か起きるかも』というワクワク感も刺激された。

基本的には会話劇が続くだけだし、その内容も腑に落ちるものではないものがほとんど。それでも独特な空気感と予兆を感じさせる映像を観ていると何となく引き込まれているから不思議だった。

個人的に冒頭で出てきた劇中劇を象徴するテレビのカットも、中盤以降は宇宙人の観ているモニター映像なんじゃないかと思ってしまい、そう考えると全ての行動は見られていた必然であって、意図はわからないものの、必然的なラストだったようにも思えてくる。

そのラストカットでのUFOの登場は作品自体の作りから考えるとちょっとしたサプライズで、ここで実物を登場させるのかと思うと同時に、未知との遭遇的な視聴者へのリアルサプライズを感じた。

海外批評サイト、ロッテントマトでも批評家筋の評価は概ね高かった一方、オーディエンス評価はいまいち。それでも映画は自分が感じたことが全てだと思うので、そういう意味では本当に観て良かった作品だと思いました。

とにかく『ふわっと浸りたい』そんな気分に見事にマッチした久々ハマったオールドスタイルなSF作品でした。

ヴァスト・オブ・ナイト

ヴァスト・オブ・ナイト

  • 発売日: 2020/05/15
  • メディア: Prime Video