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春江水暖 しゅんこうすいだん

まさに絵巻物を映像化したような美しさ。

『春江水暖 しゅんこうすいだん』

ポスター画像


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大河・富春江が流れる街・富陽の美しい自然を背景に、変わりゆく中国社会の中で懸命に生きる大家族の四季を描いた人間ドラマ。

中国のグー・シャオガン監督の長編デビュー作で、2019年・第72回カンヌ国際映画祭批評家週間のクロージング作品に選ばれた。再開発のただ中にある杭州市の富陽地区。顧家の家長である年老いた母の誕生日を祝うため、4人の息子や親戚たちが集まる。しかし祝宴の最中に母が脳卒中で倒れ、命は取り留めたものの認知症が進み、介護が必要になってしまう。飲食店を営む長男、漁師の次男、ダウン症の息子を男手ひとつで育てる三男、気ままな独身生活を楽しむ四男ら、息子たちは思いがけず、それぞれの人生に直面することになる。日本でも2019年・第20回東京フィルメックスコンペティション部門で審査員特別賞を受賞。

アジア系の映画ってたまに観たくなる時があるんですが、本作もそんな中での一作。

私自身、中国自体は行ったことも無いですし、日本でも自然豊かな場所に住んだりしたことはないんですよね。それなのにこの作品を観るとどこか原風景的なものを感じるというか、美しく、懐かしく感じるというか。そういうノスタルジーさを感じさせるような作品。

本作の舞台となるのは富陽地区。開発が進んでいく中、自然豊かな環境と開発されていく都市を中心に描かれていく家族の物語。

その中心にあるのが『富春江』という河で、これぞ海外といったスケールで描かれる河にまず圧倒されます。

この河の存在感も素晴らしいんですが、それを表現しているカメラワークが抜群に素晴らしい。

それを象徴するように冒頭から出てくる長回しのシーン。

そこで出てくる会食シーンを観ていると、どんな状況の何を見せられていて、ここで何かが起きるのか、起きないのか、とにかく状況が全く分からずに興味を惹かれていく感じ。映像的な優雅さも相まってか、ゴッドファーザー味すら感じてしまうオープニング。

それに加えて長回しで度々出てくる映像内でのクロスオーバー演出。

人物であったり、会話であったり。そうしたフォーカスを一点に絞らせないような雑多な感じを、映像の美しさで担保するというか、意識を持っていかれて、観ていられちゃうという妙な心地良さがあるんですよね。

長回しを多用している理由として、作品自体のモチーフとして出てくる山水画の存在があると思うんですが、その表現力がこれまた素晴らしい。

モチーフとなっているのは『富春山居図』という、巻物のように横長く続く山水画

その巻物を表現するという意味での長回しは本当に絵巻物を見せられているようで、非常に効果的で、新しいなと感じました。

作品自体のテイストとも合っているし、何より純粋に美しいんですよね。

今まで観てきた作品の中でもトップクラスに長回しが使われている気がしますし、同時にパンされる、映像表現も素晴らしい。

映画内での起伏はほとんど無く、大きな何かや事件が起きるわけでは無いんですが、ただただ美しくて見入ってしまう。

映像表現が素晴らしいと書いたんですが、同時に入ってくる音表現も良いんですよ。

自然音の鳴りが絶妙な調和を生んでいますし、伝統音楽のような楽器の音色も情緒があって凄くいい。

そういった美しさのハーモニーが随所にあって、ゆっくりと流れる河のような時間が経過していく。

そこで描かれていく人間模様と都市、時代の移り変わり、当たり前に流れていた河ですら、変遷と共に形や在り方を変えるように、人の一生というのも形を変えていくものなんだろうなと思わされる。

それでも変わらないもの、変わってはいけないものというモノの重要性であったり、かけがえのなさみたいなものを直接的では無く、間接的に問うてくる感じがじわっと沁みてくる。

ロードムービーでは無いんだけれど、ロードムービー的な趣を持った、アジアならではの自然美と哲学に満ちた良作でした。

小春日和の中、自然光の中でゆっくり観るのにぴったりな作品。疲れた心を癒すお供に是非おススメです。

では。

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