2人にしか分からないこともある。
『劇場』
「火花」で芥川賞を受賞した又吉直樹の2作目となる同名小説を、主演・山崎賢人、ヒロイン・松岡茉優、行定勲監督のメガホンで映画化。
中学からの友人と立ち上げた劇団で脚本家兼演出家を担う永田。しかし、永田の作り上げる前衛的な作風は酷評され、客足も伸びず、ついに劇団員たちも永田を見放し、劇団は解散状態となってしまう。
厳しい現実と理想とする演劇のはざまで悩む永田は、言いようのない孤独と戦っていた。
そんなある日、永田は自分と同じスニーカーを履いている沙希を見かけ、彼女に声をかける。沙希は女優になる夢を抱いて上京し、服飾の大学に通っている学生だった。
こうして2人の恋ははじまり、お金のない永田が沙希の部屋に転がり込む形で2人の生活がスタートする。
沙希は自分の夢を重ねるかのように永田を応援し、永田も自分を理解し支えてくれる沙希を大切に思いながら、理想と現実と間を埋めるかのようにますます演劇にのめりこんでいく。
恋愛って当事者にしか分からない感覚があると思っていて、それはもしかしたら本作のようにモノローグ的なものかもしれないのだけれど、単純なモノローグだとは思っていなくて、多かれ少なかれダイアローグ的な側面も絶対にあると思う。
率直に自分はそこに感動したし感情移入できた。側から見れば稚拙であったり、どうしようもない恋愛かもしれないけど、そこには確かに当人同士でしか理解できない何かがあった。
最高に楽しかったことも最悪だったことも全部含めてそれがあった。
その経験って本作のように身を滅ぼす側面もあるかと思うけど、経験し難いものを手にすることもできるんだと思う。
個人的に一番良かったシーンが、お互いの好きなものを意識し、自分も好きになってみるところ。
好きな人が好きな音楽に興味を示し、好きな人が好きなゲームをする、好きな人が好きな本を買ってくる、好きな人が好きそうなプレゼントを買ってくる。正直そこの部分の好きなものに対しての掘り下げがもうちょっとあっても良い気はしたけど、それでもそれが好きになったからこそだよな、とは思わされた。
そして、それらが徐々に薄れていき、段々とズレが生じてていく。ラストまで観た時に「一番会いたい人に会いに行く」というチラシにも書かれていたことが頭をよぎり、そうだよな、なんで当たり前に好きになった時のことができなくなっていたんだろう、そう思った時に全てのシーンが結びついて泣くしかなかった。
劇中での、東京という街にいれた必然性は互いがいなくても成立しただろうけど、互いがいなければここまで思い出深いものにはなっていなかったと思う。そう考えると東京は人生と同義に捉えられるし、そういう恋愛だったんだと思う。
そうした背景を最高なものにしていたのが山崎賢人と松岡茉優。2人の演技は素晴らしく、この2人だから成立し得た空気感みたいなものも含めて、引き込まれた。
山崎賢人のやさぐれ感の中に独特な尖った空気感も内包し、それでいて本当は優しさも持ち合わせている演技。松岡茉優のチャーミングで抜けたところがありつつも天真爛漫な、でも、不安や寂しさも持ち合わせた二面性があるような演技。
他の演者も独特なバランスと配役で、キャスティングはバッチリだったように思います。
とにかく本作は実人生にも当てはまるところが多くあり、その分響きました。
ラストでの沙希が永田に「ごめんね」という場面、その時もし自分だったら「悪かったね」と答えたいとなぜか思ったのは置いておいて、とにかく良い作品でした。
強いて言うなら細かい人物描写や設定背景なんかがもう少し描かれていたらもっと映画だったようにも思いますが。
そして本作を観たら俄然気になってくるのが原作。又吉さんは個人的にも好きなので、是非読んでどちらの方が刺さるのか、確認してみたいと思います。