東京と言うSFの街並み
「舟を編む」の石井裕也監督が、注目の詩人・最果タヒの同名詩集をもとに、都会の片隅で孤独を抱えて生きる現代の若い男女の繊細な恋愛模様を描き出す。
看護師をしながら夜はガールズバーで働く美香は、言葉にできない不安や孤独を抱えつつ毎日をやり過ごしている。一方、工事現場で日雇いの仕事をしている慎二は、常に死の気配を感じながらも希望を求めてひたむきに生きていた。排他的な東京での生活にそれぞれ居心地の悪さを感じていた2人は、ある日偶然出会い、心を通わせていく。
ヒロイン・美香役には、石橋凌と原田美枝子の次女で本作が映画初主演となる石橋静河を抜擢。「ぼくたちの家族」でも石井監督と組んだ池松壮亮が慎二役を演じる。
冒頭から漂う独特な雰囲気。それが後に東京という町の特異な性質なんだと気付かされる。
常にネオンが灯り、皆がスマホを見ながら歩く。飲み屋ではどのテーブルでも同じような話題で話し、誰かが誰かに興味を持つこともない。
個々で見ると自分の意思で生きているはずなのに、集団に紛れると意思は無くなり、プログラムでただ動いているようにすら見えてくる。
そんな作られた感じが東京という町にはあって、機械的な近未来感を彷彿とさせる。
この映画の面白いところがこの映像表現に現れている気がするし、内容自体もどことなく異質な気がする。
生きることの難しさを謳っているはずなのに、それほど感傷的でも無いし、先のわからない不確かさを嘆いているのにそこにもそれ程重い印象の場面は無い。繰り返される音楽もどことなく無機質な感じがして録音された何かを聞かされている印象すらある。
全編を通してのSF感というか機械感のようなバランスが絶妙で、そこに無意識的に惹きつけられた気がした。
恋愛映画というよりも、生きていく過程にある恋愛という一つの通過点を見た印象に近い。
人は常に何かしらの不安があってそれを少しでも薄めるために何かをする。その一つが恋愛だろうし、友情だろうし、趣味だろうと思う。
本来目的を与えられて生まれてきたわけでは無いはずなのに、目的を見出さないと生きていけない。なんか変な感じはするけど、それを表現するとこんな映画になるのかもしれない。そういう意味では自分の中にある人生への心持を少しでも軽くしてくれた映画だったかもしれない。
とにかく不思議な感覚の映画でこれほど細部を観返したいと思える映画も珍しい気がした。まあもう一度観てそれを確認するのも良い気がする。
夜が来ても眠らない街東京に完全な黒は無く、生きている証である光を足した青色が占めるように。