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カセットテープ・ダイアリーズ

音楽、詞に出会うことで新たなる道が開ける幸福感たるや。

『カセットテープ・ダイアリーズ』

ポスター画像


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1980年代のイギリスを舞台に、パキスタン移民の少年がブルース・スプリングスティーンの音楽に影響を受けながら成長していく姿を描いた青春音楽ドラマ。

87年、イギリスの田舎町ルートン。音楽好きなパキスタン系の高校生ジャベドは、閉鎖的な町の中で受ける人種差別や、保守的な親から価値観を押し付けられることに鬱屈とした思いを抱えていた。

しかしある日、ブルース・スプリングスティーンの音楽を知ったことをきっかけに、彼の人生は変わり始める。出演は「キャプテン・アメリカ」シリーズのヘイリー・アトウェル、「1917 命をかけた伝令」のディーン=チャールズ・チャップマン。監督は「ベッカムに恋して」のグリンダ・チャーダ

音楽の力ってホント偉大ですよね。

ブルース・スプリングスティーン自体はもちろん知っていたし、曲も聴いたことはありました。でも、そこまで掘り下げて聴いたことも無かったし、そこまで思い入れがあるアーティストでも無かった。

それがこの映画を観て、見え方ががらりと変わったといいますか。

音楽には人生を変える力もある、というのは決して言い過ぎでは無く、自分も様々な局面で何度癒され、救われてきたことか。そんなことを本作からも痛感させられる。

中でも歌詞は、言葉として、メッセージとして、直観以上に深く刺さってくるもの。

メロディ以上に解釈や理解することできるもので、だからこそより沁みてくるというか、よりリアルに実感として、論理的に捉えることが出来る。

悩みだったり、怒りだったり、悲しみだったり、何かしらの鬱屈した気持ちと音楽的なフィーリングがマッチした時がそのピークで、その音楽との結び付きや思い入れも最高に強くなるというもの。

その感覚がこの映画にもあるんですよ。

しかも本作は実話だというから驚き。

劇中での音楽の使い方もシーンや心情に即したもので、その歌詞が字幕と共に流れてくるような演出が最高なんですよね。

この表現も映画の作りとして映画ならではですし、だからこそ直観的にも響いてくる。

個人的な話をすると、音楽ってメロディから入ったところがあったこともあり、メロディに対するウェイトは必然的に大きくなりがちなんですよね。

中学生の時にメロディのカッコ良さから洋楽、主にメロコアやUKロックを好きになったというのが大きいんでしょうね。それが今でも根底にはあって、だから音楽におけるメロディ偏重傾向。

とはいえ詞によって受ける気付きも当然あるわけで、そこにはより深い何かがあるというか、忘れられないような気持にさせてくれることが多いなと。

この作品でも主人公であるジャベドは人種差別や時代背景、個人という枠組みの違い等から、とにかく生き辛い生活を送っているわけです。それがこのブルースの曲を聴くことで見事に開けてくる。

このプロセスの見せ方だけでも本作は十分楽しめちゃう。要はスカッとするわけです。同じような境遇では無くても、何かしら鬱屈したものを昇華するのって純粋に気持ちいいじゃないですか。そういった存在する全てのカタルシをテンポ良く、分かり易いプロットで語ることで、どんどん気持ちが加速していくし、自分の中のあるあると重ねて考えることで余計にのめり込んでいく。

話の中で少し無理があるようなこともあるし、現実的にどうなのかというような部分もあるわけですが、それはそれ。この映画の本質的な所はそういうところじゃなくて、『音楽で人生は変わるんだ』というところだと思うんですよ。それをブルースのような、実体験に基づく詞を書くアーティストを起点に描くことで、よりその重みが増してくるんだと思う。

劇中中盤にある、「自分の言葉で語りなさい」というのもホント目を覚まさせてくれる。

自分の言葉で考え、語ることって大人になれば勇気がいることだし、無難に過ごす術を身に付けてしまうからこそ、やりづらくなっていくもの。

でもそれをしてたら自分の感じる理不尽さを変えることは一生できないんですよ。

それこそ当時の方が、今と違い、社会からの抑圧みたいなものも多かったでしょうし、そうした絶対的な圧力からのエスケープとして音に乗せ、気持ちを語るということは今以上に重要なファクターだったんだと思う。そんな歌があるから頑張れるって良いじゃないですか。

でも、この作品の良さはそうしたところだけに留まっておらず、全てを切り捨てないところにもあると思う。

まず、冒頭に出てくる親友やジャベドの家族、彼女や隣人なんかもそうですが、全ての現状や人間関係にもしっかりと着地していく。

親友との関係性も否定するのでは無く、互いに理解し繋がりを切らない、妹とも悪いことを共有し、エスケープを作ることでより深い信頼を築き、親とも真摯に向き合うことで和解することも出来た。

特に父親と和解する登壇のシーンは泣けましたね。言葉が二人、はたまた全員の気持ちを掴み、今まではブルースの言葉に頼っていたところを、自分なりの解釈と言葉で更なるブラッシュアップを行い、自分の言葉で語る。それにより彼女ともわかりあえるというのも良いですしね。

なんか人との繋がりって言葉一つで、こうも変わっていくのかと思うと本当に言葉からのマインドセットは重要だなと思います。

あと良かったのがラストの車で出発するシーン。これも今まではハンドル、つまりは操縦という名の自立した判断をさせなかった父親が、それこそその舵取りを息子に任せるって、泣かせるじゃないですか。とにかく音楽愛に満ちた音楽映画。やっぱり音楽は素晴らしい。

では。