大切なのは何を共有したのかということ。
『ロング・トレイル!』
名優ロバート・レッドフォードが主演・製作を務め、北アメリカ有数の自然歩道「アパラチアン・トレイル」踏破を目指すシニア男性2人組の旅を描いたロードムービー。
欧米で人気の作家ビル・ブライソンが実話をもとにつづった著書「A Walk in the Woods」を、「だれもがクジラを愛してる。」のケン・クワピス監督が映画化した。
かつて紀行作家として世界各地を旅したビルは、現在は故郷で家族と共に穏やかな毎日を送っていた。そんな日常に物足りなさを感じたビルは、全長3500kmにおよぶ アパラチアン・トレイルを旅することを思いつく。
40年ぶりに再会した破天荒な友人カッツと一緒に出発したものの、予想外のハプニングが次々と2人の身に降りかかる。
自分自身と対峙したいというか、見つめ直したいと思う時って度々あって、本作もそんなことがきっかけで観た気がする。
今までやってきたことや、築いてきたこと、そういったものと関係なく、本当の自分を知りたくなった。そんなことがきっかけで話の本筋にあるロングトレイルを始めるというのが本作のあらすじ。
そこに至るまでのテンポ感も悪くないし、余計な説明や過程を端折る潔さも良い。
細かいディテールを入れていたら話の本筋が見えにくくなるだろうし、それを意図するような映画でもないと思う。
そのトレイルを共にする相棒も良くて、古くからの悪友。そんな彼しかこの話に賛同しないところも、それまで疎遠になっていたところも設定として面白い。
そこからじいさん2人の長旅が始まるわけだけどその展開も緩いようでいてリアリティを感じるし、道中のそこかしこに人生そのものを見る気がした。
それぞれの人物の性格なんかも道中での行動から浮き彫りになってくるし、合わなそうなのに仲が良いというのも実人生を考えるとなんとなく頷ける。
人と馬が合うというのは表面上の取り繕いよりもっと深くに根付くものであって、より感覚的なものなんだと再認識させられる。
それにプラスしてその相手と何を体験し、共有し、語り合ったのか。そう考えた時に人生という長い旅にかけがえのない人間関係を構築することの必要性を感じた。
画力として、風景描写の壮大さも心地良く、コロナ禍での閉塞的な空気感を完全に払拭してくれるようなところも今だからこそ味わえる魅力かと。観たことない景色を気心知れた相手と共有するのは格別な体験なのかも知れない。
あの場面で酒浸りだったカッツに酒を空けさせたのもそう。気持ちを吐露させたのもそう。心が満たされた時にこそ満足感となるのだということを。
ダラダラと長くしようと思えば長くなりそうなテーマながら、かなりコンパクトにテンポ良く纏まっていた作品だと思うし、その一助になっていたであろうロバート・レッドフォードとニック・ノルティ。
他の演者も含めて素晴らしい調和の取れた良作でした。