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37セカンズ

本当に大切な心の在り方を考えさせられる。

『37セカンズ』

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映画『37セカンズ』予告編

出生時に37秒間呼吸ができなかったために、手足が自由に動かない身体になってしまった女性の自己発見と成長を描き、第69回ベルリン国際映画祭パノラマ部門で観客賞とCICAEアートシネマ賞を受賞した人間ドラマ。

脳性麻痺の貴田夢馬(ユマ)は、異常なほどに過保護な母親のもとで車椅子生活を送りながら、漫画家のゴーストライターとして空想の世界を描き続けていた。

自立するためアダルト漫画の執筆を望むユマだったが、リアルな性体験がないと良い漫画は描けないと言われてしまう。

ユマの新しい友人で障がい者専門の娼婦である舞は、ユマに外の世界を見せる。しかし、それを知ったユマの母親が激怒してしまい……。

主人公のユマと同じく出生時に数秒間呼吸が止まったことによる脳性麻痺を抱えながらも社会福祉士として活動していた佳山明が、オーディションで見いだされ主演に抜てき。

母親役を神野三鈴、主人公の挑戦を支えるヘルパー・俊哉役を大東駿介、友人・舞役を渡辺真起子がそれぞれ演じる。

ロサンゼルスを拠点に活動するHIKARI監督の長編デビュー作。

正直世の中は偏見に満ちていると思うし、自分自身も例外じゃないと思う。

故にそれを見ないようにしたり、認知しないようにしたりといった、考えなくても済む言い訳を用意しているような気がする。

本作ではそういった『言い訳』をあっさりと切り捨てさせてしまう強いメッセージ性に痺れた。

冒頭から衝撃的なショットに始まり、物語もどういったところに向かい、着地させるのかが全く分からない、ある種の緊張感に満ちた形で進んでいく。

予想を現実にするかのような展開に陥っていく過程の描き方も実にスリリングだし、そこからの展開もそれ以前の展開があればこそ。

本作はとにかく役者陣が秀逸で、リアリティと説得力をもって迫ってくる感覚が妙にマッチしていた。

母を演じる神野三鈴さんは細かな表現や心の在り方が良く見えてくる演技が胸に刺さるし、俊哉を演じる大東駿介さんは強さと優しさ、佇まいなんかの雰囲気含めて良い塩梅に説得力があった。個人的に舞を演じる渡辺真起子が特に好きで、こんな大人になりたいなと心から思わせてくれる演技を見せていた。

そして何と言ってもユマを演じる佳山明。素晴らしい演技と内側から湧き出てくる人間性。投げかける言葉の力の無さと同居する優しさが本当に心を打った。

歌舞伎町という街もそうだし、そこにいる人もそう。偏見の目で見られる人達こそ、真に偏見が無く、自分たちが普通だと考える人にこそ偏見があるんじゃないかと思わされるショットの数々には圧倒された。

終盤で明かされる37秒の意味。それだけの違いで人の一生は変わってしまうわけだし、逆にそれだけのことであって変わらないとも言えてしまう力強さが本作にはあった。

ビル群や街並みを観て宇宙人の存在を語り、漫画という世界で空想を描く、そういった大義の外枠の中では、人間の一生なんてちっぽけだということを語るところにも一考の余地を感じた。

ユマが言う「私で良かった」というセリフには『姉であるユカでなく、私が37秒遅れてきて生まれたことが良かった』という意味なのか、『37秒という時間も含めて私という存在で良かった』という意味なのか。どちらにせよ本当の意味での自己肯定感を持って踏み出す感覚に心底感動した。

それらを序盤でも出てきた編集長との会話で表現し、ラストシーンに繋がるシークエンスは涙無しには観れなかった。

出来るのにやらない、考えられるのに考えない、そうした思考停止状態に陥っていることがどれだけ無意味で、勿体無いことをしているのかということを投げかけられている気がして、とても響いた。

所々挿入されるCHAIの楽曲のポップさも良く機能していたと思うし、何より映画内に込められたメッセージの強さ。これは何気なく過ごしている全ての人に是非観てほしい作品だと思う。


CHAI - N.E.O. - Official Music Video (subtitled)