伏線の張り方が異常そして映像とのミスマッチ最高。
『ミッドサマー』
『ミッドサマー』本国ティザー予告(日本語字幕付き)|2020年2月公開
長編デビュー作「ヘレディタリー 継承」が高い評価を集めたアリ・アスター監督の第2作。
不慮の事故により家族を失ったダニーは、大学で民俗学を研究する恋人や友人たち5人でスウェーデンを訪れた。彼らの目的は奥地の村で開催される「90年に一度の祝祭」への参加だった。
太陽が沈むことがないその村は、美しい花々が咲き誇り、やさしい住人たちが陽気に歌い踊る、楽園としか形容できない幸福な場のように思えた。
しかし、そんな幸せな雰囲気に満ちた村に不穏な空気が漂い始め、妄想やトラウマ、不安、そして恐怖により、ダニーの心は次第にかき乱されていく。
ダニー役を「ファイティング・ファミリー」のフローレンス・ピューが演じるほか、「トランスフォーマー ロストエイジ」のジャック・レイナー、「パターソン」のウィリアム・ジャクソン・ハーパー、「レヴェナント 蘇えりし者」のウィル・ポールターらが顔をそろえる。
公開から短期間で二回観てきました。
正直一回目は仕事終わりのレイトショーに行ったということもあって集中力が6割程度。それでも色々と引っかかるところ、ぞっとする所なんかが多くて、頭から離れない状況に。
色々な考察を読んだり、自分で思慮を巡らせたりして臨んだ二回目。
完全に二回目の方が楽しめました。というかこれは観れば見るほど、観る視点を変えれば変えただけ楽しみ方が変わる映画じゃないかと思います。
以前からポスタービジュアルや特報なんかが公開され、この明るい中でホラー的な何かが起きるのか。ただ前作のヘレディタリーを作ったアリ・アスター監督ならあり得る話だと思いながら楽しみにしておりました。
結論から言うと、『わかる人にはわかるし、わからない人には全くわからない話』という感じでした。
どういう事かというと、本作はゴア描写等のホラー的演出はあるものの、ジャンル的な怖さはほとんどありません。
音や映像で驚かすような怖さ、表現としての怖さ、むしろ怖さがあるのかすらわからないといったくらいです。
人は誰しも自分の現状を普通と捉え、過去や未来、他者の常識を異質なものとして捉える傾向があるように思います。
そう捉えると本作に出てくる土着の信仰や習慣というのはどちらが正か何て判断できるものじゃないだろうし、それを怖いと捉えるのもおかしなことのように思えてくる。
故にホラーなのかどうかがわからなくなってくるということです。
映画的にどうかという話ですが、その点はこの作品は素晴らしい。
まず映像表現として、観る者を飽きさせないようなショットが多く、鏡越しに人物を捉えてみたり、トイレのドアを開けると場面が変わって飛行機のトイレになったり、両親と妹の死を逆から見せていったり、俯瞰ショットや不安を予兆させるようなショットだったりと、間延びしそうな場面やまさかと思わせる場面には必ず仕掛けが潜んでいます。
これと似たような演出が美術や小物使い。
特に部屋の演出が素晴らしく、壁に掛けられている画や写真などにも後に効いてくる伏線がかなり潜んでいます。
前作のヘレディタリーでもその辺はあったのですが、監督のインタビューでもこの辺の伏線というか考えさせる余韻みたいな部分は意図的に盛り込んでいるようです。
監督曰く「観終わった後に何も疑問が残らない映画はダメだ」的なことを言っていましたが、自分もそう思っていて、余韻を引きずる、もしくは何となく引っかかるような映画の方がしっくりくるように思います。
そんな仕掛け満載の本作なので、観れば見るほど楽しめるんじゃないでしょうか。
それにしても白夜というというのは天国のようでいて異様な地獄にも見えます。それも夜が来ることを当たり前と考えている為に起こる異形のものとしての異様さからでしょうか。
最後に見せたダニーの笑顔は異形を普通と捉えたことに対する安堵なのか、それとも普通だと思っていた自分が執着していたクリスチャンからの解放へのものなのか。
どちらにせよ、それ以外にせよ、ホルガ村の信仰の原点である『調和』。自然とのそれや人々のそれ。そういった『調和』をベースに考えるとわかる気がしてきます。
ルーン文字など、難しく考えるとそれはそれで面白いですが、そういったことを抜きにしても映像美、音楽の使い方など、シンプルに映画として楽しめる部分が多い作品だったように思います。
二回とも若い人も結構入っていたのとパンフレットが既に行く場所行く場所で完売なのも驚きでしたが、こういった映画が人気になるのも嬉しいものです。
いやぁアリ・アスター監督。今後の作品にも期待が高まります。