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『仮面の告白』に見る、矛盾を抱える人間の美しき苦悩

芸術性を帯びた文章に硬質な文体、でも、書かれているのはあくまでも私的な事柄であって、吐露にも似た個人的で独白地味たもの。

なのに何故こんなに惹かれ魅力的な文章だと思ってしまうのか。

仮面の告白

女に魅力を感じず、血に塗れた死を憧憬しつつ自らの性的指向に煩悶する少年「私」。

軍靴の響き高まるなか、級友の妹と出会い、愛され、幸福らしきものに酔うが、彼女と唇を重ねたその瞬間「私には凡てがわかった。一刻も早く逃げなければならぬ」――。

少年が到達した驚異の境地とは? 自らを断頭台にかけた、典雅にしてスキャンダラスな性的自伝。

当時の時代背景を考えるとこれがいかにセンセーショナルだったのかと思うと同時に、表層上の悩み以上に深い考察を感じてしまいます。

そんな三島の視点が面白いと思わされるのが、”自分というフィルターを通した抽象概念の言語化”にあると思わされるのは、描写の丁寧さや言語力、語彙力、表現力を見れば明らかなわけですが、ここまで自伝的な成分が多い作品ですらそれを言語化出来るというのは本当に凄いことだと思わされる。

前半部分なんて詩的な部分であったり、一層抽象化された表現も多く、語られていることは己の性癖や死生観について。それにも関わらず、装飾的な表現には間々ハッとさせられる。

文章的景観が頭に描かれ易い時もあれば、描きづらい時もある、ということも抽象化等の言い回しや装飾の多さからくる部分が多いのだろうなと思いつつ、それでも魅了されてしまうということには疑いが無い。

そうした複雑さ込みでの美しさを感じるのが彼の文体の素晴らしいところで、突き詰めて読み込んでいくと論理的な破綻も無く、意外とシンプルな結論に集約されていくというのも三島の手腕があればこそ。

正常と非正常であったり生と死であったりといった二項対立的な部分も作品内で見られるわけなんですが、この辺の話の帰結だったり考え方というのも非常に面白い纏め方が多いんですよね。

言語化が難しい表現をものの見事に表現できるからこそ、読んでいるこちらも感覚的に納得感を得やすいといいますか。

共感の有無はさておき思考の一端を具体的に理解できるというのがとても興味深い。

性に関する部分に関しても、同性が気になってしまうという葛藤を”肉欲的な欲望”と”愛”という観点から考えるというのは自分自身も時々思うことであり、それすらも言語で描く見事さがある。

三島自身も作品内で同性に対し、性的対象としてそう思うのか、はたまた感情的な部分から惹かれているのかという葛藤が見られるんですよね。

人間は常に矛盾が同居しているという考えが下敷きにあるからこそ、葛藤が生まれ、少なくとも自分の中では解決の糸口を探っていく。

作品内で出てくる園子というキャラクターはその中核にいるわけで、前半における自身の告白に対し、中盤からこの園子を中心に自身の葛藤が描かれていく。

物語自体は至ってシンプルなんですよ。

性癖から戦争を経ての死生観を経由し自身の葛藤を描いていく。

でもやはりその表現力なんでしょうね。美しいと感じるか否かというのも各人によるところではあると思うんですが、私はどうしても三島の長たらしいほど装飾の多い表現に美を見出してしまう。

結局三島が作中で同性に惹かれた否応無さを描いたように”惹かれる”ということへの抗えなさは個人個人で異なり、絶対に存在はするわけですよ。

冒頭の引用でカラマーゾフの兄弟の一説にも

美という奴は恐ろしいおっかないもんだよ!つまり、杓子定規に決めることが出来ないから、それで恐ろしいのだ。(中略)美の中では両方の岸が一つに出合って、すべての矛盾が一緒に住んでいるのだ。・・・

という記述があるように、自分自身ですら計りかねる部分があるわけですよ。

その葛藤こそが悩みの種であったりもするわけですけど、そこに正面から切り込んでいる三島はやっぱり凄いですよね。

それこそ引用の多様さも恐ろしいもので、全然わからない部分も含め、とにかく引き出しが多い。

語彙にしても表現にしても引用にしてもここまで自由自在に出来たという知的な部分が三島の文学的教養の高さを示しているなと。

ラストの描かれ方も好きな部分で、ここまで語られてきたこと、葛藤のある種の帰結が描写として描かれるんですが、実に生々しくて素っ気ない。

純粋に、そういうものか、そういうことだったのか、やはり・・・というような感覚に囚われ、理解出来る出来ないを問わず納得させられるという。

途中でもこうした生々しい表現が出てくるわけですが、臨場感があり、肌感覚を伴うようなリアリティ表現は何故出来るんですかね。

いずれにせよ三島文学の中で金閣寺と並ぶ名著ということも含め、文体と内なる表現の美しさを堪能するには読んだ方がいい作品かと思います。

では。

18私の生涯の不安
34音が中和されあって
50あの友達の言葉
55巨樹は青い冬空
61こうした小説風な
70ともするとこの予知の
79愛の奥処には
81波ははじめ
104私の人生への勤勉さ
110戦争がわれわれに
111旅の支度に
113たえず自分に
131その間に空気は
141自分を正常な
150すると私には
168時と所の隔たり
176これが愛だろうか
189逃げ場を失った人間
193それにしても自分を
222人間の情熱が