ガールズアドベンチャーというのもまた面白い。
『夏子の冒険』
破天荒であり、憧れともとれるような生き様の投影。
本作における夏子という主人公にはそうした三島自身のある種の羨望に似た目線を感じてしまう。
三島の幼少期を考えるとそうした奔放さというのはやはり、何かしらの憧れじみた観念があったのであろうと考えられ、夏子の存在がより生き生きと浮き上がってくる。
物語としては夏子というお嬢様が熊を討伐に行くといった感じなんですが、狩るのは夏子では無く、毅という偶然遭遇した男性。
そもそも夏子というのが誰にでも分け隔てなく接する美人であり、様々な相手からアタックを受ける人物として描かれており、表層上のものには靡かず、真に好奇心をそそる、情熱滾ることを求めているんですよね。
ここまで情熱を求め、自身も情熱に傾倒するというのは思っていても出来ないことであって、それをしれっと実行してしまう夏子という女性像がまずもってカッコ良い。
対比的に夏子の家族、祖母、母、叔母という人物たちが登場するんだけど、これが全く逆のいかにもな女性像を持った、ありふれた人生を送っているような人物たち。
それ故なのか自身の行動や夢といったものに希望を見出すというより、他者任せで意義ある野心めいたものは見受けられない。
大抵の人物はこっち側に位置すると思うんですが、そうでなく、夏子側にフォーカスが当たっているのが面白く、大衆性へのカウンターとして楽しめ、余計に家族の側が滑稽に見えてきてしまうというバランスが痛快。
こんな人生で良いのか、何を生きがいに生きているんだろうかとか。
そんな冒険譚を中心に据えた展開なんですが、三島らしい機微の描写は健在で、そこの楽しさや美しさは相変わらず。
個人的に本著で一番驚かされたのが章ごとの展開でした。
細かく章ごとに区切られ、タイトルが設けられているんですが、この章終わりの歯切れがよく、まるで映画やドラマの場面転換を感じさせるほど引きが強い終わり方をしていくんです。
興味を掻き立てられるという意味でもそうなんですが、それ以上に文章の切り方と余韻が素晴らしい。
唐突さも有り、兆しも有り、含みも有り。
この部分の歯切れはピカイチでしたね。
構成としての面白さもあって、夏子の心情の変化を追っていくと、”人生を謳歌する”ということに重きを置いた夏子の核心が見え隠れし、ラストに向けた納得感がいっそう高まっていく。それにより爽快な読後感を助長してくれるというのも夏子であればこそ。
冒険と一口に言っても色々あるわけだが、とりわけ人生における本質的な冒険心というのは常に心の片隅にでも残しておきたいなと思わされる、そんな作品でした。
では。