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アンダードッグ

実直さは人の心を打つ。

『アンダードッグ』

ポスター画像


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「百円の恋」の武正晴監督が、森山未來北村匠海勝地涼をキャストに迎えたボクシング映画。

プロボクサーの末永晃はかつて掴みかけたチャンピオンの夢を諦めきれず、現在も“咬ませ犬”としてリングに上がり、ボクシングにしがみつく日々を送っていた。

一方、児童養護施設出身で秘密の過去を持つ大村龍太は、ボクシングの才能を認められ将来を期待されている。大物俳優の2世タレントで芸人としても鳴かず飛ばずの宮木瞬は、テレビ番組の企画でボクシングの試合に挑むことに。

それぞれの生き様を抱える3人の男たちは、人生の再起をかけて拳を交えるが……。

「百円の恋」の足立紳が原作・脚本を担当。3人の男たちを中心に描いた「劇場版」は前後編の2部構成で同日公開。また、3人と彼らを取り巻く人々の群像劇として全8話のシリーズで描く「配信版」もABEMAプレミアムで配信される。

最近何となくボクシング熱のある私ですが、この映画も観たいと思いながら観れずにいた一作。

ABEMA制作でドラマとしても公開されているんですが、それを映画でも並行して撮り、それを前後編に分けて制作されたもの。

前後編合わせて4時間半超えとやたらと長い。

それもあってか中々手がつけられていなかったんですが、観出したらそれこそ一気に観れてしまう。というかむしろ一気観せずにいられないという感じ。

ボクシング映画にある、内から湧き上がる高まりってなんなんでしょうね。

別にボクシングに詳しくなくても、それこそ好きか嫌いかを抜きにしてもその物語に、関わる人、応援する人、全てに対して感謝と敬愛を持ってしまう。

そんな感情の機微であったり、積み上げのためには、これだけ時間があっても足りないと感じてしまうほど、人間というものの人生が詰まっている。

本作の特に素晴らしいと感じるのがまず、演者の役作りですよね。

全員素晴らしいと言ってしまうとあれなんですが本当に全員素晴らしい。強いて言うなら主演の森山未來。彼は桁違いに作り込みが凄い。

もう終盤に見る彼の姿なんて、ただのボクサーですよ。肉体作りも去ることながら、佇まい、ちょっとした身のこなし、視線の動かし方、表情に至るまで、あらゆる所作が物語る、人生の過酷さと抗えない自分という存在そのもの。

こうした状況と積み上げをここまでリアリティを持って表現できるというのはやっぱり凄いことですよ。

動きや体の作り込みに関しては自分も共感するところがあって、「本当にボクシングのトレーニングをすることでその筋肉を付け、動きを習得していった」というのは納得ですよ。

どんなスポーツを体現するにも、見せかけの筋肉、見せかけの動きで演じられるものは結局観る人に伝わってしまうと思うんですよね。

さらに驚きだったのが、試合の様子。

特に終盤で戦う大村であったり、中盤で戦う宮木であったりといった試合が実際には当てずに戦っていると言うんだから、どうなっているんだといった感じ。

これは撮影監督であったり、監督の演出だったりの賜物でしょうね。

迫力が桁違いでしたし、それまでの各人の物語、人となりがあるからこそ感情が増幅されてしまう。

まるで本物の試合を見ているような錯覚に陥り、普通に感動してしまうところを考えても素晴らしい脚本の作り込みがあればこそ。

要するに全ての部分において綿密な作り込みが成されているからこそ出来た作品なんだろうなということが作品全体を通して伝わってくる。

戦う3人それぞれが戦う理由を持っていて、それが観客や視聴者に伝わるかは別としても、”感動”という形として伝染するというのはそこに”真の気持ち”があるからこそなんだろうなと痛感させられる。

要するになあなあでやっていることに誰も心は動かされないし、何も伝わらない。

勝つか負けるかが重要なんじゃなくて、どういう面持ちでどう行動していくのか。結局そういったひたむきな姿勢だったりに人は痺れるんだろうなと思うわけですよ。

しかもその心の動きっていうのは意図するものでなく、無意識に湧き上がってしまうからこそ共感につながる。

ラストマッチで晃の息子と父親が立ち上がり、大村の妻が目に涙を貯めながら応援する姿を見た時、そうした自然と溢れる情動の大きさを感じずにいられなかった。

サウンド面でも非常に印象的だったのが時折入るハーモニカの音色。

これが西部劇にも似た情緒というか哀愁というか、とにかくいいタイミングで入ってくるんですよ。

生き様であったり、情けない場面においてこうもハーモニカの相性は良いのか。言葉では説明できなくとも、感覚的に無意識的に反応してしまう謎の共鳴性。

画的にも、ボクシングシーンでの撮り方はもちろんなんですが、それ以外だと個人的には複数人を同一画面内で捉えた平面的な面白さがある。

一番顕著だったのがボクシングジムでのシーンで、晃が会長に怒鳴られ帰り際に階段を降りる場面。左上と右下で上階と下階を同時に捉え、表情と場の雰囲気から伝わる一枚絵の辛辣さ。

そうした一枚画の、ある種戯画ともとれる画作りは中々シュールでツボでした。

色々と書いてきましたが、ボクシング映画は人の人生が詰まっているから楽しい。これを考えると百聞は一見にしかず。観て理解するより、感じて動かされる方が間違いないでしょう。

では。