考えることでリンクする共鳴感が心地良い。
『残響』
この小説は主題の『残響』の前に『コーリング』という作品も併載されているんですが、共に受ける印象は近しいものを感じる。
保坂作品を読んだのは初めてだったんだけど、非常に共感できるような言い回しや言葉遣い、思考のプロセスや発想なんかも含めて、とにかく終始心地良い。
なにがそんなに心地いいのかと言われるとそれを一言で言い表すのは難しいけれど、強いて言うなら『人物描写のテンポ感が丁度良い』のかもしれない。
これも人によっては色々な人が唐突に出てくるし、しかもその人数も多くて分かりずらいとか、シーンも転々と変わっていくので分かりずらいとかがあるのかもしれない。
でも個人的にはそれが心地良く、そこまで分かりずらさも感じないんですよね。人物描写が丁寧で、キャラが立っているし、出てくるシーンも必然性があるから自然と入ってくるというか。
その出てくる人物たちの思考や行動、言動なんかが面白くて、映画同様会話劇が面白い物語はやっぱり面白い。
本作に出てくる人物たちのそれは表面的な会話もありつつ、その背景だったり、心理として考えていることなんかに、より重きをおいた描写がなされている。さらにそれが描かれている光景とリンクしながら自分の思考とも混ざり合って、といったような感じでスッと入ってきてドシっとくる。
作者自身も何か考えるのが好きなんだろうなと伝わってくると同時に、自分自身も考えることが好きなんだと認識するし、世界を認知する上で、思考という行為はやっぱり必要不可欠なんだと思わされる。
思考を巡らせることって別にしなくても生きていけるし、むしろ想像しない方が楽に生きられるのかもしれない。
それでも本質的な満たしを得たいと思うと、絶対に必要な行為なんだろうなと。
そんな感じで、日常を切り取った中で起きているのであろう共鳴。この連鎖がとてもテンポ良く、立体的な様子をもって描かれていく作品は、日常にあるちょっとした物語であったり、角度を変えた物事の知覚が好きな人にとっては興味深い作品になっていると思う。
では。
『コーリング』
11全体に陽気な
28ただ向き合っているだけで
33美緒が一生懸命話している
40二十代の明るさが
45むなしいだのさみしいだの、
49ただそれだけ
60思い出すということが
70目の前で生きているのに
『残響』
86視界というものを
103人生というのは
104霊的と名づけることが
107自分でいちいち全部考えるより
123深見鏡子のように
137簡単に言葉にして
139自分がしていることを人間は
143知るか知らないかは
147人は自分の感じていることしか
148今自分が一人だけで
152カレーのルーにも脳にも
162一人でも感じられる
167じゃあ時間は全然流れない
179見るも考えるも物質的に
186現実というのは