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メッセージ

言語化することが惜しいほど愛しい。

『メッセージ』

プリズナーズ」「ボーダーライン」などを手がけ、2017年公開の「ブレードランナー 2049」の監督にも抜擢されたカナダの鬼才ドゥニ・ビルヌーブが、異星人とのコンタクトを描いた米作家テッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」を映画化したSFドラマ。

ある日、突如として地球上に降り立った巨大な球体型宇宙船。言語学者のルイーズは、謎の知的生命体との意思疎通をはかる役目を担うこととなり、“彼ら”が人類に何を伝えようとしているのかを探っていくのだが……。

主人公ルイーズ役は「アメリカン・ハッスル」「魔法にかけられて」のエイミー・アダムス。その他、「アベンジャーズ」「ハート・ロッカー」のジェレミー・レナー、「ラストキング・オブ・スコットランド」でオスカー受賞のフォレスト・ウィテカーが共演。


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ドゥニ・ヴィルヌーブ作品の中では断トツに好きな本作。公開当初に映画館で観れなかったことが惜しまれる。

ヴィルヌーブ作品というと、退屈で美しい映像が続くイメージ(褒め言葉)ですが、本作はその上でお話も最高に面白い。

SF作品で思いつくのは、スターウォーズやエイリアン、ブレードランナー未知との遭遇などといった超名作の数々。

それらはドンパチがあったり、ゾッとさせられたり、とにかく驚きが求心力となってライドして進んでいく物語がメインな気がするんですよね。

対して本作はその部分に頼らず、実世界と地続きで起きているリアリティを担保したまま、SF的快楽はしっかりと内包しているところが異質なところ。

出てくるのはただのばかうけだし、出てくる主要キャラクターも極僅か、華がある音楽が使われるわけでも無いし、どこかに圧倒的カタルシスがあるわけでも無い。けれども、全てにおいて満たされた気持ちになるのが魅力的な部分なのかと。

一場面一場面がとにかく美しく、荘厳なシーンに常にハッとさせられるショットの数々。音像的な部分の作品への影響も大きいと思っていて、ここまで音が緻密に設計された作品は少ないんじゃないでしょうか。

それらは映像に限ったことでは無く、内容的にもその驚きが詰まっている。

突き付けられるその問いそのものが作品からのメッセージに感じるし、自分という個の、人間の無力さ、人間という種自体の滑稽さを抱かずにはいられない。

多様化だなんだと言ってはみるものの、本当にそれを捉え、実行出来ている人がどれほどいることか。

それ以前に多面的に物事を見て、思考し、判断することが如何に重要であるかといういことを。

人が現在持っている価値観を正とし、それ以外を邪とする考えはホント間抜けだと思うし、その人間の価値観の中でも争いを起こすわけだからなおさら。

作品自体の見せ方も非常に良くできているなと思っていて、オープニングの子供との流れるような見せ方は最高にスマートでスッと物語に入れるところが上手いところ。

徐々にこれが何を意味するかが分かるといった加減も絶妙だし、終盤へと円環構造になっているのも良い。それを暗示するようなヘプタポッドの文字であったり、子供の名前であったり。

謎の知的生命体の描き方も姿を見せないギリギリのバランスが見事だし、そのコミュニケーションのやり取りもいちいち良い。

ビジュアル的な美しさがSF的な硬度を一層高めているし、その信憑性にも一役買っていると思う。

言語の解釈や分析の仕方も見事にハマっていて、これには専門家が関わっているとのことで、知的好奇心も十二分に満たされる。

知的好奇心という観点で言うと、『時間』というものの捉え方は一番驚かされた。

人が時を認識する際、流れるものであり、川のある地点を見ているイメージ。謎の知的生命体は時を面として捉えており、川の全景が見えているようなイメージ。

何かで読んだ時に書いてあった、『時というのは知的生命体にしかない概念だ』とか『言語の取得が新たな世界観や思考を獲得する』といった事を思いだしたのだが、その辺のニュアンス表現もかなり絶妙な所を突いていて、上手く表現できているように思う。

仮に過去と未来が見え、結果がわかっている時、それまでに取る行動に変わりはあるのかどうか。言語の取得により、今まで見えなかった視点で世界を見れるようになるということ。その時何を思い、行動するのか。

深過ぎる問いと共に、良い脱力感が襲ってきます。

これだけ静的な映像にも拘らず、これだけダイナミックで、身に沁みるSF作品というのも今まで無かった気がしていて、故に独特な視聴体験となっているように感じるんでしょうか。

ヴィルヌーブの良い点が詰まった良作。未見の方は絶対観たほうが良いかと思います。

では。