老いを感覚的に理解する怖さ。
『OLD』
「シックス・センス」「スプリット」のM・ナイト・シャマラン監督が、異常なスピードで時間が流れ、急速に年老いていくという不可解な現象に見舞われた一家の恐怖とサバイバルを描いたスリラー。
人里離れた美しいビーチに、バカンスを過ごすためやってきた複数の家族。
それぞれが楽しいひと時を過ごしていたが、そのうちのひとりの母親が、姿が見えなくなった息子を探しはじめた。ビーチにいるほかの家族にも、息子の行方を尋ねる母親。そんな彼女の前に、「僕はここにいるよ」と息子が姿を現す。
しかし、6歳の少年だった息子は、少し目を離したすきに青年へと急成長していた。
やがて彼らは、それぞれが急速に年老いていくことに気づく。ビーチにいた人々はすぐにその場を離れようとするが、なぜか意識を失ってしまうなど脱出することができず……。
主人公一家の父親役をガエル・ガルシア・ベルナルが演じ、「ファントム・スレッド」のビッキー・クリーブス、「ジョジョ・ラビット」のトーマシン・マッケンジー、「ジュマンジ」シリーズのアレックス・ウルフらが共演する。
やはりシャマランと言いますか、らしさあふれる作品で。
正直全体のまとまりとしてはイマイチな感じなんですがその問いと見せがはエグい。
ティーザーやチラシなんかを見ても老いに関する話なのは一目瞭然なわけで、それを知ってて観に行っているのに、老いの本当の怖さに気付いていない自分がいることに気付く。
人は老いていくものだし、変化していくもの、それくらいは誰しも頭の中でわかっているもののそれが急速に行われ、その渦中にいるとしたら。
起きている事を当たり前に捉えて、受け入れていく感覚って、あくまでも徐々に体験していくものだし、年齢と共にその質も変化していくものだと思うんですよね。
例えば、友人関係であったり、恋人関係であったり、家族関係であったり。さらに言えば体の変化もそうだし、知識や、感覚なんかもそう。
頭の中で考えることも含めて蓄積されて徐々に馴染んでいくもののはずなんです。それが一足飛びに目まぐるしく変化するとしたら。
それを急速に見せられた時、真に必要な感覚は『今を生きる』事なんじゃ無いかと思わされた。
今までの経験も知識も人間関係も風貌も持ち物も、全てが意味を成さなくなり、そこにある自分のみが真の存在になる。
その過程において必要だと感じ、その時間をしっかりと過ごせるならば、それが幸せなのかもしれないと思う。
本作では老いというものをコントロールし、人智に還元する事でより良く過ごせる。それをすることで社会に貢献していると感じさせられているけれども、むしろ本質は逆で、未来や過去にばかり囚われていると見えなくなってしまうものがあるんじゃないかと思わされる。
冒頭の父親と母親の未来志向、過去志向に対して、子供たちの現在志向。この対比がラストに影響してくるところも面白く、実人生においても怖さを感じさせる問いではあった。
個人的に一番怖かったのはクリスタルの変貌で、美への執着や傲慢な性格は一番恐ろしかった。
死の際にあって、不細工だった恋人を思い出すように、追い求めていたものが何も意味を成さなくなってしまう。その最後は反面教師的でもあり、人生においてそうなりたく無いと思うばかりでした。
正直展開も読み易いですし、それほど面白いプロットでも無いものの、気付かされる怖さや演出なんかはシャマランらしい作りで、中々楽しめました。