こんなにも読切で引き込まれるなんて思わなかった。
『漫画なのに映画的~ルックバック編~』
学生新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野。クラスメートからは絶賛を受けていたが、ある日、不登校の同級生・京本の4コマを載せたいと先生から告げられるが…!?
チェンソーマンもそうでしたが、藤本先生の作品は本当に映画的だし、引用やオマージュの仕方が素晴らしいと思う。
個人的に特に好きなのが、カット割りと細部の丁寧さ。
本作もやはりコマ割りは映画的で、カメラワークにも似た自然さで感情を刺激してくる。漫画にはそこまで空気感とかは無いと思っていたけど、思い返せば好きな漫画や小説にもそういった空気感というのは必須な気がする。
ただこの藤本先生の作品は喜怒哀楽の表現や動きの表現、はたまた静的な表現まででさえもコマで語ってしまうところが恐ろしい。
背中だけで語りかけてくるようなコマ表現も本当に見事だし、なんなら吹き出しで語る以上に語られている気がしてくるくらい。人は背中で語るを体現し、表現しうるのは並みの表現では難しいと思うことを、いとも簡単にやってしまっている。
それが見ていて心地良いし、テンポ良く読めてしまうのかもしれない。本作も143ページと決して短くないものの、すぐに読めてしまうし、読む手を止められない。
映画を途中で止め無いように、この漫画もそういった意図があるのかもしれないという所も含めて映画との関係性が深く伺える。
細部の丁寧さに関してもそう。
冒頭と末尾での含みであったり、出てくる本やDVDもそう、とにかく色々な含みや表現込が作品内に散りばめられており、何度見ても新しい発見や気付きがある。
そういうところと物語の骨格って相反する部分だと思っていて、内容が骨太だったり、精緻だったりするとどうしても重くなりがちで、手に取るのにためらいが生じたりもするもの。なのに藤本先生の作品はどれもそういったことを感じさせず、むしろ気軽に読めてしまう。
難しいものを難しく語るのは簡単だし、それはある種やりやすいのかもしれない。ただ本作のようにそういったディティールに目配せしつつ、ストーリーにも余白と含みを持たせる。その辺のバランス感覚と描き方がとにかく心地良く、何度も読み返させてしまうところなんだろうなと思う。
自分自身、何度も漫画を読み返すタイプでは無いにもかかわらず、未だに何度も読んでしまっていることを考えても本作がいかに魅力的であるかわかる気がした。
9月には単行本でも発売されるらしいので紙で読む、スマホで受ける感覚との違いも確認しつつ、まだまだ楽しめそうです。
とりあえず映画好きで漫画も好きなら絶対に読んだ方が良い作品なのは間違いないかと。これが無料で読めるなんて奇跡的です。
では。