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すばらしき世界

真の素晴らしさとはなんなのか。

『すばらしき世界』

ポスター画像


映画『すばらしき世界』本予告 2021年2月11日(木・祝)公開

「ゆれる」「永い言い訳」の西川美和監督が役所広司と初タッグを組んだ人間ドラマ。

これまですべてオリジナル脚本の映画を手がけたきた西川監督にとって初めて小説原案の作品となり、直木賞作家・佐木隆三が実在の人物をモデルにつづった小説「身分帳」を原案に、舞台を原作から約35年後の現代に置き換え、人生の大半を裏社会と刑務所で過ごした男の再出発の日々を描く。

殺人を犯し13年の刑期を終えた三上は、目まぐるしく変化する社会からすっかり取り残され、身元引受人の弁護士・庄司らの助けを借りながら自立を目指していた。

そんなある日、生き別れた母を探す三上に、若手テレビディレクターの津乃田とやり手のプロデューサーの吉澤が近づいてくる。彼らは、社会に適応しようとあがきながら、生き別れた母親を捜す三上の姿を感動ドキュメンタリーに仕立て上げようとしていたが……。 

西川美和監督作品は『ゆれる』の時から観ていたんですが、中でも本作はかなりやられました。

自分の年齢的なものや思考が重なり、作品テーマである善と悪、自己と他者みたいなところともリンクした気がします。

西川監督は本当に人間の機微を描くのが上手い。そしてそれを映像に丁寧に落とし込み、なおかつ役者の演技も生かし切る。本作ではその役者陣がとにかく素晴らしく感じました。

中でも役所広司と仲野太賀。この二人にはかなり惹きつけられた。役所広司が演じた三上は愛敬があり、時に気性が荒いような男。その雰囲気を抜群に演じ切れていたし、素でそういう人間なんじゃないかと思ってしまうほどの存在感を持って画面内に存在していた。

どことなく愛敬があるっていうのが凄い難しいと思うけど、役所広司が演じると簡単に見えてくるからなんとも不思議。時代劇から現代劇まで、どんな役でもこなせてしまうのは本当に凄いと思う。

仲野太賀も以前から良い役者だと思っていたけど、本作での演技は際立っていた。特に目で訴える演技というか、表情で伝わる演技が素晴らしかった。

この背景には当然監督の演出や原作の脚色があってこそだと思っていて、描き方とにかく丁寧。世界を作り、丁寧に描写することで、こんなにも豊かな感情に溢れ、人物を魅力的に描写できるのかと驚いた。

画作りもそうで、特に構図へのこだわりを感じた。寄りと引きの使い分けが場面への緩急を付け、壁や枠を効果的に入れることで閉塞感や開放感を演出する。登場させる構造物やモノによって変化を予感させる。

この予感させるというのが全体の構造とも関わっている気がして、それも面白い。

悪いことが起きるかもしれない、良い方向に向かっているかもしれない、解放されるかもしれない、また閉じ込められるかもしれない、色々な予感が場面内に共存し、本作で一番気になる善悪に明確に分類できない『まっとうさ』を問うてくる。

社会的にまっとうとされていることや正しさって本当に正しいのか。社会において共存していく上では必要なのかもしれないけど、それって本当に正しいことなのか。

中盤で長澤まさみ演じる吉澤が言っていた「排除されるのが怖いから、大きな声は出さないんです」というセリフが正にその通りで、皆争いや批判を恐れ、排除されない為に声をあげない。それが正しくないことを薄々感じながら、声をあげる人を叩くだけ。

その背景にあるのがこれまた吉澤が言っていた「レールの上を歩いている私たちも、ちっとも幸福なんて感じていないから、はみ出た人を許せない」ということ。本当にその通りだなと思いながらも吉澤が行う行動には疑問を感じたりもした。

SNSが広がってきた現代に一層蔓延する、偽善めいた正義。その代弁者として存在する三上の存在は観ていて本当に苦しくなったし、心動かされた。

それでも、その偽善に疑問を投げかけ行動に移す他者がいることも本作では示しているし、それこそがすばらしき世界なのかもしれないと思わせてくれるところがある。

空の広さを知り、世界を知る。本当に開放的な空間こそがすばらしい世界ともいえるようなラストシーンに心底痺れました。

本作の原作である『身分帳』も復刊されており、西川監督が「もともと佐木さんの文体が好きだった」と語っていることもあって、是非読んでみたいと思います。

余談ですが本作のパンフレットは中々良いです。1cmほどの厚さがあるパンフレットで演者のコメント等も詳細に書いてありますし、何よりシナリオの決定稿が全文掲載されているので、細部含め脳内再生できるかと思います。ここまで丁寧に作り込まれたところ含め、西川監督の丁寧さには最後まで驚かされます。

 

身分帳 (講談社文庫)

身分帳 (講談社文庫)